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進行した膀胱がんに新治療薬…抗体と組み合わせ効果

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 かなり進行して標準的な治療が難しくなった 膀胱ぼうこう がん患者に対し、新たな治療薬が2021年に登場しました。がん細胞にくっつく抗体と抗がん剤を組み合わせた薬で、がんを縮小させる効果も確認されています。この薬の仕組みは、がんにとどまらず他の病気の創薬にもつながる可能性に期待が寄せられています。(竹井陽平)

抗がん剤が基本

 膀胱は、腎臓で作られた尿をためる袋状の臓器です。膀胱がんは年間約2万3000人がかかり、約9000人が亡くなります。60歳頃から増え始め、患者の7割は男性です。

 比較的早期の場合は、膀胱内に抗がん剤を注入したり、膀胱を摘出する手術を行ったりします。

 ほかの臓器に病変が転移し切除が難しくなるなど、がんの進行度の指標となる病期が「4期」になれば、治療法は限られます。まずは抗がん剤を使うのが基本です。その効き目の維持のためや、効かなくなった場合の次の一手として免疫治療薬が使われます。

 しかし、これらが効かなくなり標準的な治療法が尽きることが、大きな課題になっていました。そこで21年秋に、公的医療保険が認められたのが点滴薬の「パドセブ」です。

 パドセブは抗体薬物複合体(ADC)に分類される薬です。がん細胞の表面には、抗原と呼ばれるたんぱく質があります。ADCは、この抗原の種類に合わせて付着する性質がある抗体に、リンカーと呼ばれるひもで抗がん剤を結んだものです。薬剤が、がん細胞に付着して中に取り込まれると、がん細胞内でリンカーが切断され、抗がん剤がばらまかれる仕組みです。

 日本や欧米などで行った承認申請に向けた臨床試験(治験)によると、既存の抗がん剤を使った集団と比べて生存期間が4か月延びていました。また、患者の約7割はがんの進行が抑えられており、がんが小さくなる効果も約4割で確認されました。

他の創薬も期待

 千葉県内に住む70歳代の男性は、膀胱がんが腹膜に転移し、22年1月に筑波大病院(茨城県)でパドセブの治療を始めました。2月にコンピューター断層撮影法(CT)で調べると、がんは小さくなり、悩まされていた腹水の症状も治まりました。男性は「体が楽になったし、希望が見えてきました」と喜びます。

 主治医で同大教授の西山博之さんは「これまで打つ手がなかった患者にも、短期間で高い効果が出る場合があり、大きな切り札になります」と語ります。

 ただし、発疹や、 末梢まっしょう 神経障害による痛み、しびれなどの副作用が起きやすいことが分かっています。これらの症状の程度に応じて、減薬や休薬なども検討します。

 ADCは、エンハーツ(乳がん、胃がん)、アドセトリス(リンパ腫)、カドサイラ(乳がん)など、他のがんの治療薬としても使われています。

 薬の仕組みに詳しい国立がん研究センター先端医療開発センター長の土井俊彦さんは「近年、リンカーの技術が目覚ましく進化しました。既存の抗体と薬の組み合わせで、自己免疫疾患や感染症などへの創薬も大きく進むことが期待できます」と話しています。

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