文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

22歳女性、介護した祖母から受け継ぐ「おうちごはん」…思い出とともに食卓彩る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
「おうちごはん」の思い出

亡くなった祖母に教わったレシピで作った料理を仏壇に供える長濱さん(3月17日、大阪府茨木市で)

 新型コロナウイルス対策の「まん延防止等重点措置」が解除されて10日余りがたちました。新年度もスタートしましたが、会食を「1卓4人以内」にする呼びかけなどは各地で続いており、警戒を解くのは時期尚早。まだしばらくは「おうちごはん」を味わう機会が多くなりそうです。

 今春、同志社大を卒業し、社会人になった長濱京香さん(22)が、家族の夕食を作るようになったのは祖母の介護がきっかけでした。「包丁を手にするのは、リンゴの皮をむく時ぐらいでした」。そう以前を振り返って笑います。

 祖母の藤澤 満理まり さんは、体が思うように動かなくなる難病「大脳皮質基底核変性症」を患い、長濱さんは高校3年から2020年8月に71歳で祖母が亡くなるまで約3年間、家族と一緒に在宅介護を続けました。

 祖母と過ごした最後の正月。2人でおせちを作ったのをきっかけに、料理の楽しさに「どはまり」します。一緒に何かをする時間を持てることも貴重に思え、祖母から手ほどきを受け、夕食を作るのが日課になりました。

 煮物やお浸し、ハンバーグ、コロッケといった家庭料理を中心に、冷蔵庫にある食材を使って効率よく作る知恵を教わりました。作り方はノートやスマートフォンに走り書きでメモしていましたが、昨秋からパソコンでレシピとして整理し直しています。

 「受け継いだ料理を作ると祖母の思い出がよみがえり、ずっとそばで見守ってくれている気がする。きちんとした形で残し、将来は自分の子どもにも伝えたい」。食卓を彩るのは、そんな思いのこもった「おうちごはん」です。

 そうした日々を〈私の毎日を輝かせてくれたのが祖母だった〉とつづったエッセーが、第5回「 生命いのち を見つめるフォト&エッセー」で審査員特別賞を受賞。2月にその取材で出会い、思い出を生き生きとした表情で語る長濱さんの姿を見るうちに私自身のことに思いを致しました。

 私は父が3年前に他界し、大阪府高槻市の実家で母(77)が一人暮らしをしています。「一人が気楽」が口癖で、元気に歩き回っていましたが、昨年末、就寝中にベッドから落ちて脇腹を痛め、急に足腰が弱りました。みるみる年老いてしまった姿に戸惑いながら、介護をどうするか悩んでいるところです。

言わせて 聞かせて

 長濱さんも「介護で心身ともに削られた」と振り返ります。祖母の病状が悪化した最後の半年は、毎晩一緒のベッドで添い寝をしましたが、頻繁にトイレまで抱きかかえて連れていく必要があり、寝不足が続きました。大学の試験勉強はベッド脇でしました。

 「でも」と、長濱さんは言葉に力を込めます。「恩返しができ、たくさんの思い出を作れた。介護で大変な思いをしている人も、後になって良かったときっと思うはずですよ」。長濱さんは亡き祖母の分の夕食も作って仏壇に供え、「教えてもらった通りに作ったよ」「うまくできたかな」と語りかけているそうです。

 家族にとって難しくて重い介護の別の一面に触れ、私の不安も少し和らぎました。

今回の担当は

 阿部健(あべ・たけし) 大阪府高槻市を拠点に街の話題や行政の動きを取材してきた。4月からは兵庫県明石市が拠点。52歳。

身近な疑問や困り事、記事への感想や意見を寄せて下さい

言わせて 聞かせて 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「言わせて」係

 iwasete@yomiuri.com

 QRコードから「友だち追加」してください

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事