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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

「医師は寝ないで働くのが当たり前」はもうやめよう 医師の働き方改革に思うこと

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「宿日直」は労働時間に含まれず 待機しているイメージ

「医師は寝ないで働くのが当たり前」はもうやめよう 医師の働き方改革に思うこと

 日本医師会、四病院団体協議会、全国有床診療所連絡協議会は3月18日、宿日直許可の基準緩和などを後藤厚生労働大臣に要望しました。「医師の業務の特殊性を踏まえて」対応してほしい、というのです。

 内容としては、宿日直許可の回数の緩和や、2024年4月からの時間外労働上限規制の罰則適用の数年猶予などが要望されています。

 宿日直許可とは何でしょうか。

  宿日直とは、「常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務であって、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とする」とあります。 要は、あまり仕事しなくていいけど、待機、というイメージです。夜間の待機を宿直、休日日中の待機を日直と言います。この場合は、その時間は「労働時間」として取り扱われません。

 が、現実世界はこうなっていません。実際の勤務医は宿日直中も多数の労務があります。しかも、「労働時間」にカウントされていないのでこの間の時給は低いです。このようにして、多くの勤務医は、結果として長時間労働になっています。

 宿日直扱いを適用するには、雇用者が労働基準監督署に申請して許可を得る必要があります。「多数の労務」をしているのであれば、本来、宿日直には該当しません。そのうえで、回数は宿直が週1回、日直が月1回以内と定められています。許可を得た回数を超えて宿日直を行わせた分は、労働時間として取り扱うこととされています。

日医や病院団体 宿日直回数の上限引き上げを要望

 そこで、日医などは週1回が上限の宿直を月8回に、月1回が上限の日直を4回に増やしてくれ、と要望したのです。「宿日直」は労働時間には含まれませんが、宿日直中も多数の労務をしている実態からすると、実質的には勤務医の労働時間の延長です。

 日本医師会長の中川俊男氏は、「医師の特殊性」に鑑み、他の労働者と医師の宿日直許可基準を変えるべきだ、という見解を述べました。

 医師の宿日直に許可が出ない現状がある中で、罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されれば、大学病院から医師が引き揚げられて医療崩壊を招いたり、兼業している医師の収入が減って大学病院を離職する医師が増えたりするといった問題が起きる、というのです。

 2024年4月から、医師の時間外・休日労働の上限は原則年960時間以下/月100時間未満となります(なお、一般産業においては720時間です)。しかも、例外的に年1860時間以下の時間外・休日労働を認める場合もあります。

 連続勤務時間の規定もあり、連続勤務時間は最大28時間、その後の次の勤務までのインターバルを18時間おく、といったルールができます。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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