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医療・健康・介護のコラム
デイサービスで古典や英米文学も…「介護保険で通える大学」で尊厳保つ
学校形式のデイサービスを運営する 小暮康弘さん 65
運営するデイサービスでは、認知症の高齢者らが通ってきて、授業を受けます。古典や英米文学といった大人が学ぶ教養のような授業で、大学の名誉教授をはじめ、講師は一流です。「介護保険で通える大学」だと自負しています。
利用者は真剣な表情で授業を聞いています。できることも増えていきます。こうした姿を見ることができるのがやりがいです。
学校形式を取り入れると、過去の記憶を呼び起こすことができます。また、介護されているという意識を感じにくく、尊厳を保てるという利点もあります。
施設では当初、介護職員が2桁の足し算や簡単な理科など、小学校低学年で学ぶような内容を教えていました。しかし、始めて半年ほどたった頃、認知症の男性利用者に「バカにするな」と怒られました。
認知症の人が理解できるのは低学年レベルだと能力を見誤り、簡単でいいと思っていたことに気づかされました。それから、教養や知識を刺激できるように、源氏物語などの古典を読んだり、英米文学から文化や歴史を学んだりする内容に変えました。
授業は1コマ60分。1日3コマです。利用者は1時間座って授業を聞き、黒板の文字をノートに写します。教室のような部屋で学活やあいさつをする環境は、長期記憶を刺激し、子どもの頃にできたことを思い出させるのでしょう。トイレや歯磨きができるようになった人もいます。
若年性認知症の男性を自宅に送ったときのことが印象に残っています。男性の「ただいま」の声に、男性の妻が泣き出したのです。男性は10年間、笑顔を見せたこともなかったそうです。デイサービスが、家族にとっても光を差す存在になると感じた瞬間でした。
音楽や書道、美術の講師は、専門の教育を受けた地元の人。数学を教えるのは認知症になった元教師です。介護の裾野を広げ、地域の人材を生かすこともできる、このような取り組みが増えればいいと思います。(聞き手・村上藍)
こぐれ・やすひろ 1957年、群馬県生まれ。大学院修了後、群馬女子短期大(現・高崎健康福祉大)などで古典を教える。退職後、運送会社で介護施設の運営に携わる。2016年に起業し、前橋市にデイサービス「こぐれ学園」を設立した。
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玲
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「介護保険で通える大学」、とてもすばらしいサービス形式だと思います。高齢者というだけで、レクリエーションの内容が幼稚園のお遊戯レベルになる必要は全くありません。「認知症の方々の尊厳を保とう」というなら、なおさらです。大学教授だった父は、介護保険を利用することになった時、介護職員の方からレクリエーションとして、カラオケと、パチンコに似たゲームを提案されて愕然(がくぜん)としていました(怒りはしませんでしたが)。たとえ授業が難しい内容でも、忘れてもわからなくてもよいのです。学ぼうとする姿勢、よく理解できないものを理解したい、記憶したいと願う態度こそが最後まで人間の尊厳に大きく意味を持つからです。
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