シニアとお金
医療・健康・介護のコラム
「人生100年時代」老後を安心して送るためには?…確かなライフプラン作成のポイント
「人生100年時代」とも言われるなか、「シニアとお金」では、老後の生活に欠かせない年金の仕組みのほか、食費や通信費の節約といった家計を見直す際のポイントなどを紹介してきた。最終回となる今回は、安心して老後を送るためのヒントをおさらいする。(板垣茂良、平井翔子)
「誰も、自分がいつまで生きるのかはわかりません。老後生活の漠然とした不安を解消するためにも、まずはしっかりとしたライフプランを立てましょう」。日本FP協会(東京)の伊藤宏一専務理事は提案する。
定年退職する前後でライフプランを作る際、最初に取り組みたいのは、1年間の世帯収支の確認だ。年金の受給額、再雇用やパートで得られる給与、投資信託の分配金といった項目を、税金などが差し引かれた手取り額で把握しておくことが重要だ。
支出は、食費や光熱費、家賃・住宅ローン、医療や介護の社会保険料など。収支がマイナスなら、毎月取り崩す貯金額の目安がわかるため、節約の意識も生まれやすい。
プランの作成では、将来にまとまった費用が発生しそうなイベントとそれぞれの大まかな必要額も洗い出したい。例えば、自宅の修繕や車の買い替え、子どもの結婚、自らや配偶者の葬儀などだ。
ただ、人生には、病気やけがによる入院、介護など、あらかじめ予定を立てにくいことも起きる。伊藤さんは「例えば介護なら、地域にどんな施設があり、毎月の費用はどれくらいかなどを日頃から情報収集しておくだけでも、安心感が違います」と助言する。
自分で作成するのが難しければ、ファイナンシャルプランナー(FP)など、プロの助けを借りるのも手だ。自治体が、専門家による無料のセミナーを開催している場合もある。
繰り下げを活用
多くの人にとって、老後の主な収入は年金だ。受給開始時期は原則65歳だが、受給の手続きをせずに開始時期を66歳以降に先送り(繰り下げ)すれば、年間の受取額を増やすことができる。
年金の実質的な価値は、現役世代の平均賃金のどれくらいに相当するか(所得代替率)で説明されるが、その割合は少子高齢化に伴い、目減りしていく見込みだ。受給開始の時期の繰り下げは、こうした状況への対策にもなる。繰り下げによる増額率は66歳で8・4%、70歳で42%だ。
今年4月からは最長で75歳まで繰り下げることができるようになる。社会保険労務士の山田理香さんは、「年金額が少ない人ほど、増額で得られる安心感は大きい。1か月単位で繰り下げられるので、自身のライフプランと照らし合わせて検討してみては」と助言する。
また、年金の繰り下げ受給と合わせ、定年後も再雇用やアルバイトで働けば、収入面での安定感は増す。厚生労働省の調査によると、65~69歳で働いている人の割合は約5割、70~74歳では約3割。また、66歳以上でも働き続けられる企業は増えている。あらかじめ、勤め先の再雇用制度を確認しておきたい。
再就職先を探す際は、ハローワークの高齢者向け窓口が便利だ。収入よりも生きがいを重視した働き方なら、シルバー人材センターに登録するという手もある。
老後になって初めて株式投資や投資信託などの資産運用に取り組む際には、慎重さが必要だ。退職金の大半をつぎ込むようなことはせず、「当面は手を付ける予定のない余裕資金」の範囲で行いたい。
固定費を節約
現役時代より収入の減る年金生活では、節約を考える人も多いだろう。取り組みの効果が大きいのが、固定費の見直しだ。
生命保険もその一つ。夫が加入するのは、残された妻や子どもが生活に困らないようにするためだが、子どもが学校を卒業して働き始める段階になれば、大型の死亡保障は再検討する価値がある。同様に、現役時代に作ったクレジットカードがたくさんある場合、利用頻度が高く、年会費の不要な1~2枚に絞りたい。
最近は、スマートフォンを使いこなす高齢者も珍しくない。スマホの料金プランは、携帯大手のほかにも様々な事業者が幅広い価格帯で展開している。料金だけでなく、故障や紛失時のサポート体制なども見比べよう。
シニア世代の家計で、食費は全体の支出の約3割を占める。ただ、切り詰めすぎると、ストレスの原因にもなりかねない。FPでもある山田さんは、「ほどほどに取り組むのが、節約を長続きさせるコツです」と話している。
将来資金 積み立て投資で
老後資金の準備について、年代別の注意点をファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんに聞いた。

老後資金の準備は早めに始めることがポイントと話す山中さん
人生100年時代では、多くの人が20代前半で働き始めて約40年間働きますが、その後40年間は収入がないということになります。できるだけ早い時期から老後資金の準備を進めておくことが、将来の自分への「仕送り」になります。
そのためには、「収支をしっかり管理する」「結婚や住宅の購入など、ライフプランの見通しを立てる」「資産を増やす」といったポイントをしっかり押さえることが大切です。
ただ、年齢ごとに収入や暮らし方も変わります。20代はまず、公的年金制度について大まかな仕組みだけでも知っておきましょう。老後の不足分をどれくらい補えばいいのか、イメージしやすくなるためです。
それから活用したいのが、「iDeCo(イデコ)」や「つみたてNISA(ニーサ)」。いずれも非課税で長期の積み立て投資ができるものです。ニーサは運用した資産をいつでも受け取れて、イデコは60歳まで受け取れません。ただ、イデコは非課税期間が長く、始める年齢が早いほど得するなど、税制面での優遇が大きく、老後の資金作りに向いています。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
どちらも運用次第では元本割れの可能性があります。受け取り時期が近くなった時に、運用益を確定し、定期預金にするなど適切に対応することも大切です。
30代は結婚や転職などの転機を迎えることも少なくありません。出産、教育資金や住宅購入費から、老後の生活費や介護費まで、必要となりそうなライフイベントを想定し、かかる費用を調べておきましょう。
ちなみに、老後資金は月26万円が必要と言われています。介護にはさらにお金が必要になります。現状の収支や資産で、「補えていない」「収支の見直し方が分からない」「今の資産形成・運用に不安がある」という人は、信頼できるプロの相談先を見つけておくのが、おすすめです。
特に、親の介護や自身の病気、子どもの進学などに向き合うことの多い40代以降は、生命保険やローンなど自分が見直したいものを専門とするファイナンシャルプランナーを探すのも、良いですね。
定年退職後、余裕のある暮らしを維持するためには、「老後も働く」「長く稼ぐ」という選択肢も検討してみてはどうでしょうか。50代のうちに資格やスキルを習得するなどして、次の50年に向けた生き方や働き方を考えてみましょう。(談)
◎「シニアとお金」は今回で終わります。
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