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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

電柱のカラスに話しかけていた…自閉スペクトラム症で不登校の中2男子を支えたもの

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「カラスは逃げたり、僕を脅したりはしません」

 通院を始めて5か月後の診察で、大輔君はこう話しました。

 「僕はカラスが好きなんです。学校からの帰り道で、いつも同じ電柱に同じカラスがとまっています。学校を休んでからもカラスを見に行きました。カラスと目が合うこともありますが、カラスは逃げたり、僕を脅したりはしません。よく見ると、カラスは黒いけど、きれいな鳥かもしれない。一羽ずつどれも違うんです。カラスはみんなから嫌われているけど僕は大好きです。人に嫌われているところが、僕と似ているかもしれない。唯一の友だちです。そのカラスにいろいろ話しかけていました。でも、こんなことを同級生に話したら、さらにバカにされますよね」

 このころになると、お母さんは、大輔君を無理やり人のなかに入れようとしたり、好きなことに一人で没頭するのをじゃましたりすることはなくなりました。そして、大輔君が楽しいのであれば、好きなことをとことんさせてあげようと考えるようになりました。

 中学2年の3学期から、大輔君は勇気を出して適応指導教室に通い始めました。動物が好きということで、高校は、自宅から少し離れた農業高校に入学しました。入学後は休まず登校を続けています。気の合うゲーム仲間が何人かできたようです。

こころを開くことのできる対象があること

 一般的に、カラスはあまり人から好かれていない鳥かもしれません。昔からカラスは、悪魔や魔女の使い、あるいは不吉の象徴としてさまざまな物語に描かれています。大輔君は、そんなカラスを自分の学校での境遇と重ね合わせ、好意を抱くようになったと考えられます。ひとりぼっちの大輔君のことを、いつも同じ場所で逃げることなく見守ってくれたのです。大輔君は、そんなカラスにいろんなことを話しかけていました。

 教室での同級生との関係に傷つき、人に対する不信感でいっぱいの思春期の子どもを支えてくれるものは何でしょうか。それは人でなくてもよいのかもしれません。大輔君の場合はそれがカラスで、誰にも言えない自分の思いを語ってきたのです。カラスは、当然、否定することもなく聞いてくれます。答えてくれることもないのですが。

 でも、カラスに語りかけているうちに自分の考えが整理され、新たな考えが浮かび、前に進むエネルギーが湧くようになったのでしょう。

 カラスに対して自分が素直になり、こころを開いて話すことができたことは、大輔君がもともと持っていた力だといえます。学校で友だちがたくさんいるということだけが、子どもたちの成長を促すのではありません。人でなくても、こころを開くことのできる対象があれば、子どもたちは十分成長する可能性があることを、大輔君は私たちに教えてくれたのだと思います。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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一人だって大丈夫

5月の風

私も苦手でした。クラスの中に幾つかのグループができ、その雰囲気になじめず、その結果、浮きました 悪口も言いたくないし、言われたくもなし。相手の気...

私も苦手でした。クラスの中に幾つかのグループができ、その雰囲気になじめず、その結果、浮きました 悪口も言いたくないし、言われたくもなし。相手の気持ちを考えて言葉を選ぶことは、必要ですが疲れます。友人は少なくてもいいと思っていました。学生時代に、連絡事項などの情報が入ってこないのは少し困りましたが、自分で注意すればよいことだと気が付きました。友達100人より、ゆったり話せる数人で十分だと思っています。それよりも、自分が何をしたいかにしつかり向き合うことが大事だと思うのです。一人時間を大切にしていますし、一人が落ち着きます。これで70年生きてくることができました。今は毎日、感謝の日々です。カラスや理解のあるお母さん、先生に会えて何よりでしたね。どうぞご自分を大切になさってください。

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