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徐々に進む加齢性難聴 会話減り認知機能低下のリスク…早期発見、補聴器使用も

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 加齢とともに聞き取る力が弱くなる耳のフレイル。そのままにしておくと会話が減り、認知機能の低下につながりかねないという指摘もある。「加齢性難聴」の早期発見に取り組む自治体や企業も出てきた。(石井千絵)

アプリで早期発見…東京 豊島区

加齢性難聴 認知機能低下も

加齢性難聴の早期発見につなげる「ヒアリングフレイルチェック」(東京都豊島区で)

 「聞き取れない音があったとは……。ショックです」

 3月上旬、東京都豊島区の東池袋フレイル対策センター。「ヒアリングフレイルチェック」に参加した80歳代の女性は、「れ」の音を「め」と誤認するなど、いくつか聞き間違いがあったことがわかり、がっくりした様子だった。

 同区では昨年7月から、区民を対象に耳の聞こえをチェックする取り組みを続けている。使っているのは、ユニバーサル・サウンドデザイン(東京)が開発したアプリ「みんなの聴脳力チェック」。職員がタブレット端末を操作すると、「よ」「じ」といった仮名の音が再生され、参加者は聞き取った音を紙に書いていく。区は、聞き取れた音が60%未満だった人に対し、加齢性難聴の可能性があるとして、耳鼻咽喉科を案内している。

加齢性難聴 認知機能低下も

聴力を確認できるアプリ「みんなの聴脳力チェック」

 「最近、体温計のピピピという音が聞こえない」という谷口貞子さん(82)は、75%の音を聞き取れた。「これなら、耳の聞こえは悪くないですよ」と職員に言われると、ほっとした表情を浮かべ、「手軽にチェックできて、数値で自分の状況が分かるので心強い」と話していた。

 同区のヒアリングフレイルチェックは65歳以上が対象。予約制で区内18か所で無料で受けられる。今年1月までに337人が参加し、聞き取れた音が60%未満だったのは、全体の36%にあたる121人だった。

 加齢性難聴は高音から聞こえにくくなり、特にカ行やサ行が聞き取りにくいと言われている。そのため、「加藤さん」と「佐藤さん」を聞き間違えるといったケースが出てくるという。同区高齢者福祉課の岡崎真美課長補佐は「徐々に聞こえにくくなる加齢性難聴は、本人が気付きにくい。早めにチェックして専門医に調べてもらうのが大切」と呼びかけている。

話しかける側の工夫も大切

加齢性難聴 認知機能低下も

聞こえづらい人への話しかけ方のコツを説明する田中さん

 聞こえづらさを抱える高齢者との会話には、話しかける側も工夫することが大切だ。

 補聴器販売などを手掛ける「うぐいすヘルスケア」(東京)は2月下旬、豊島区内で高齢者がいる家族向けに話しかけ方の勉強会を開いた。

 加齢で聴力が低下すると、会話に集中しにくくなり、語尾を聞き逃しがちになってしまう。さらに、コロナ禍でマスクを着用したり、仕切り板が設置されたりすることが増えており、難聴の人にとっては聞こえづらい環境になっているという。

加齢性難聴 認知機能低下も

 勉強会ではこうした状況を確認し、感染の恐れが少ない場合は、なるべく握手のできる距離で正面から口元を見せて話すことや、文節ごとに区切ってゆっくり話すといった、話し方のコツを学んだ。

 講師を務めた認定補聴器技能者で、同社の田中智子社長は「聞こえづらい人は、聞こえないと言い出しにくく、聞こえたふりをしてしまうことがある。話しかける側が配慮することも大事」と指摘している。

交流減り フレイルにも

加齢性難聴 認知機能低下も

 愛知医科大耳鼻咽喉科・ 頭頸とうけい 部外科の内田育恵准教授=写真=に、加齢性難聴について聞いた。

 加齢による聴力の衰えは、音を感じる細胞が減ってしまうことで起こります。個人差は大きいのですが、30歳を過ぎる頃から変化が始まり、高い音から聞き取りにくくなります。大きな音を聞き過ぎると、音を感じる細胞が傷つくので、大音量でテレビを見たり音楽を聴いたりするのを控えることが有効です。

 難聴は、そのままにしておくと認知機能が低下するリスクが高まると考えられています。難聴で会話が難しくなり、それまで参加していた地域の活動や趣味の会に行かなくなって社会的交流が減ると、フレイルになりやすくなります。また、耳から入る音の刺激が減るので、脳の働きが減り、衰えにつながります。

 認知症の要因の中で、最も影響の大きいものが難聴だという研究報告もあります。補聴器で聴力を補うことは、認知機能の低下を防ぐ効果が期待できます。

◆フレイル =「健康」と「要介護」の間にある心身の調子が崩れた状態。「虚弱」を意味する英語「frailty(フレイルティ)」が語源で、65歳以上の1割が該当し、75歳以上で大きく増えるとされる。

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