備える終活
医療・健康・介護のコラム
「自分史」書いて人生前向きに…手紙やアルバムが手がかり まずは年表づくりから
子孫や地域の人にも元気

アドバイザーと自分史づくりを振り返る石井勝子さん。表紙には、趣味の手芸作品を載せた(横浜市戸塚区で)
「記憶がおぼつかなくなる前に、実家の歴史を書き残しておきたかった」
横浜市金沢区の石井勝子さん(89)は昨年3月、「時を 綴 りて」というタイトルで自分史を自費出版した。
執筆をサポートしてくれる教室に約3年間通った。講師は一般社団法人「自分史活用推進協議会」(東京)が認定する「自分史活用アドバイザー」で、手紙すら書いたことがなかったが、講師の助言を受け、記憶をたどるうちに書くのが楽しくなったという。

自分史の書き方のポイントを解説する講師の玄真琴さん(神奈川県座間市で)
事実を確認するため、国立国会図書館に行ったり、戸籍の証明書を取り寄せたりもした。自身のルーツに加え、戦時中の疎開や結婚生活、趣味の手芸の思い出などをパソコンで次々に書き上げた。
執筆前は、「もっと精いっぱい生きられたかもしれない」と振り返ることもあったが、「2人の子どもを立派に育てたことが自慢できる」と思え、人生に納得できたという。「孫やひ孫に残す遺産ができて、ホッとした」と話す。
■年表づくりから
「『社会的に名を残していないから、書くことなどない』と思う人がいるかもしれませんが、普通の暮らしの中に、子や孫、地域の人が元気づけられることがあるんですよ」
神奈川県座間市役所で1月31日に開かれた講座で、自分史活用アドバイザーの玄真琴さん(58)が、参加した高齢者15人に語りかけた。「だれに読んでほしいのか、自分がどんな人だと思い返してもらいたいかを考えると、何を書き残せばいいのかが見えてきます」と助言した。
書き慣れていない人がいきなり長文に挑むのは難しい。簡単な年表づくりから始めるのが手だ。誕生から順にたどらなくても、学校の卒業や結婚、出産、引っ越しなど思い出せることから書いてみる。当時の流行歌やアルバム、手紙、手帳、大事にしている物も手がかりになる。
自分史は、前向きに生きるきっかけになる。座間市の岩田悦子さん(79)は2019年に、手作りの冊子「おばあちゃんの足跡」を3人の孫に手渡した。
41歳の夏、2人の子どもと訪れたプールで飛び込みに失敗し、脊髄損傷の大けがをした。リハビリのため気功に挑戦し、中国でも指導を受けると、市民向けの教室で教えるまでになった。「孫たちに『おばあちゃんは、努力して頑張ったんだよ』と伝えたくてね」と執筆の動機を語る。
今度は、夫の寿郎さん(82)に向けて書く予定で、「私を自由にしてくれた夫に感謝の気持ちを伝えたい」とほほ笑んだ。(野口博文)
挫折にも意味 気づく

自分史のメリットや楽しく書くポイントを、自分史活用推進協議会の河野初江代表理事=写真=に聞いた。

自分の体験を記録し、形に残すことで、家族や友人、後世の子孫に伝えることができます。過去を振り返り、自身を見つめることで、失敗や挫折にも意味があったと気づき、自分に誇りを持てます。
書くタイミングは定年退職、自身の老いや寿命を意識した時など人それぞれですが、金婚式や米寿などの記念日に向け、人生の集大成として作る人が多いようです。
自分史の形は本だけでなく、手作りの冊子や、写真を中心にしたアルバムでも構いません。「大作を」と気負わず、書きたいことから書き始め、増やしてみてはどうでしょうか。思い出の場所に行ったり、恩師や旧友に再会したりするのも楽しみの一つです。
年表に沿って「時系列」に書くのが基本ですが、大事な体験にしぼる「テーマ型」もあります。自慢話だけでなく、失敗や挫折、どん底の体験も書くと読み手の励みになります。完成したら、信頼できる友人や家族に読んでもらい、手直しするとよいでしょう。
自分史作りに迷うようであれば、協議会が無料で相談を受け付けています。これからの人生を明るく前向きに生きていくために自分史を役立ててください。(談)
◎「備える終活」は今回で終わります。
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