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武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

妊娠・育児・性の悩み

偶然、父の浮気を知った高1女子 どうすれば…子どもの「今を生き延びる選択」

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勇気を出して、父の浮気を母親に

 次の診察で、佳奈さんは、

 「今はお父さんのことよりも、模擬店で売る、私が考案した抹茶ミルクのかき氷のことで頭がいっぱいです」

 と話しました。そして、

 「いつも一緒にいるお母さんを守ってあげなくては、と思います」

とも。

 その後、勇気を出して、お父さんの浮気のことをお母さんに話しました。でも、お母さんはすでに知っていたようで、さほど動揺することはなかったそうです。

 大学入学後、お父さんとお母さんは離婚しました。その後も佳奈さんは、お父さんと時々会って、大学や将来の仕事について話したり、ちょっと高価な服を買ってもらったりしているということでした。

無意識のうちに、今を生き延びる選択を

 お父さんやお母さんが浮気をすると、夫婦げんかが絶えなくなります。その様子を見て、子どもたちは悲しい気持ちになります。「自分が生まれてきてよかったのだろうか」「自分が原因でけんかをしているのではないだろうか」と考えるようになります。家庭が安らぎの場にならないことで、学校で気持ちが不安定になる子もいるかもしれません。

 佳奈さんの場合、お父さんは単身赴任が長かったせいで絆は希薄でした。ですから、浮気を知って、お父さんに一瞬、腹が立ちましたが、それよりも学校祭のことで頭がいっぱいでした。

 子どもたちは、精神的にも経済的にも、一人では生きていくことができません。ですから、無意識のうちに、今を生き延びるための選択をしています。佳奈さんは、今の自分に大切なお母さんや友だちを優先したわけです。でも、離婚後のお父さんとも会って、服を買ってもらったりしています。

 浮気をしたお父さんが問題であることに変わりはないのですが、子どもたちは現実的で、「チャッカリしている」と言われれば、そうなのかもしれません。親子関係とは、そう簡単には割り切れるものではないようです。

 だからといって、子どもたちの安らぎの場を奪う浮気を、軽視しているわけでは決してありません。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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