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森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」

 自分の症状を医師にうまく伝えられない、医師の言っていることがわからない……といった経験はありませんか? 意思の疎通がうまくできないことで、深刻な結果を招くことだってあり得ます。患者と医師が良好なコミュニケーションを保つには、どんなことを意識すればいいのか。医師教育を研究する、とちの葉クリニック(宇都宮市)院長の森永康平さんがアドバイスします。

医療・健康・介護のコラム

大雨で浸水「ショックで夜中、息苦しくなる」と言う患者 しかし、採血をしたら…「ストレスのせい」の筋書きは危険

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 こんにちは。宇都宮のクリニックで内科医を務めている森永と申します。第2回です。

 今回は、患者と医師、お互いにとっての”当たり前”が、実は当たり前じゃない……そんな話をさせてください。

災害後、体を動かすのが億劫に

大雨で浸水「ショックで夜中、息苦しくなる」と言う患者 しかし、採血をしたら…「ストレスのせい」の筋書きは危険

 クリニックの外来には、小さなお子さんから100歳近くの超ご高齢の方まで、様々な年代の方が来ます。そして、お一人お一人と話をしていくと、年代だけでなく、仕事や生活、家族など様々なバックグラウンドを抱えていることがわかってきます。もちろん私達は、記入いただいた問診票などに目を通してから診察に当たるのですが、それだけでは普段の生活や状況は見えてきません。

 病院やクリニックを受診するのは、体や心のことで「何かおかしい」と感じているからです。時に重要なお仕事を休んだり、時間を工面したりして受診されるのですから、よほどのことです。そうした患者さんや同伴するご家族は、大なり小なり原因を推測していることが多いでしょう。

 一人暮らしの70代男性が、だるさを訴えて外来を訪れました。2019年のことで、栃木県では大雨が降り、多数の家屋が浸水していた時期です。男性も当事者となって、家の後片付けに、日々、追われていたそうです。「大雨の後、数日がたって、ちょうど1週間前から体を動かすのが 億劫(おっくう) になりました。少し動くだけでゼイゼイと息が切れてしまいます。夜中に息苦しくなって、目が覚めることもあります」と訴えます。そして、「きっと自宅が冠水したのがショックで、心身ともに疲れたのでしょう」と、本人だけでなく、誰が聞いても納得してしまいそうな文脈を携えて受診されました。

採血したら重度の貧血が…

 ですが、「天災によるストレス」と現在の症状を、そのまま結びつけるのは少し待たなければなりません(決して否定するわけではありません)。検査でわかるような身体の病気はないのでしょうか?

 そう考えて、この男性の採血をしました。その結果、赤血球の中にあって酸素を運ぶヘモグロビンの濃度が、なんと健常な人の半分しかない重度の貧血が見つかりました。それに伴い、持病の心不全が増悪していたのです。

 男性は昔、胃の手術をしたことがありました。その手術の後、ビタミンの一種が吸収できなくなり、悪性貧血を発症していたのでした。家の冠水によって運動量が増えて、その症状が顕著になったのだと推察されます。ちなみに「悪性」といっても、治療法が見つかっていなかった時代に命名された病名であり、現在は注射や内服薬できっちり治療することができます。その男性は、外来でのビタミン注射を始めたところ、みるみる顔色がよくなり、だるさや息切れも取れ、再び元気モリモリと一人暮らしをしていらっしゃいました。

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森永 康平(もりなが・こうへい)

 2011年、筑波大学医学専門学群医学類卒。組合立諏訪中央病院を経て、16年、獨協医科大学総合診療科助教。22年からは、「MED AGREE CLINIC うつのみや」(宇都宮市)の院長を務める。「医学教育を観察と対話から」を合言葉に、アート作品を活用した教育事業「 ミルキク 」を起業。

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