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医療・健康・介護のニュース・解説

中耳炎、耳かき、飛行機でも鼓膜は破れる…再生治療なら切らずに改善

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 耳の病気やけがで鼓膜が破れると、聞こえが悪くなります。自然に塞がらなければ開いた穴を塞ぐ手術をしますが、細胞の増殖を促す薬剤を使って鼓膜を再生させる治療法が開発され、2019年に公的医療保険の対象となりました。この治療を受けられる医療機関が少しずつ増えてきています。(加納昭彦)

破れ放置 聴力低下

 鼓膜は、空気の振動を受け止めて震えます。振動は、音を電気信号に変換する内耳に伝えられ、その情報は脳に伝達されます。

 しかし、〈1〉中耳炎などの耳の病気を発症する〈2〉耳かきが鼓膜に刺さる〈3〉ボールがぶつかる〈4〉飛行機に乗った時に気圧が急激に変化する――といったことが起こると、破れてしまうことがあります。

 1~2か月ほどで自然に塞がることもありますが、破れたままにしておくと、音が聞こえにくくなったり耳鳴りなどの症状が出たりします。

 補聴器を使っている人は、十分な効果が発揮されなくなります。また、聞こえが悪い状態を放置すると、認知症のリスクが高まるという研究報告もあります。

 治療は、一般的に穴を塞ぐ手術を行います。耳の後ろを切開して筋肉を包む膜などを切り取り、鼓膜に移植します。通常は数日から10日程度の入院が必要ですが、鼓膜が正常に形成されず、聴力が十分に改善しないケースもあります。

軽症者が対象

 一方、鼓膜の再生治療は、細胞の増殖を促す薬剤を染み込ませたゼラチン製のスポンジを使います。

 まず、破れた鼓膜の縁に少し傷をつけて細胞の働きを活性化させます。その後、ゼラチンスポンジを詰め、医療用の接着剤で固定します。処置にかかる時間は約20分で、治療は多くの場合、日帰りで受けられます。

 再生治療は、中耳炎を患っていないなど、2割程度の軽症者が対象です。受けられる人は限られますが、切開する必要がなく、体への負担が軽くて済みます。

 この治療の開発に関わった北野病院(大阪市)難聴・鼓膜再生センター長の金丸真一さんは、「9割以上の人は3~4週間で鼓膜が再生し、聴力が改善します。炎症などの副作用が出ることもありますが、いずれも軽く済んでいます」と説明します。

 奈良県の男性(69)は、20歳代の頃から両耳の鼓膜が破れたままでした。それでも生活は送れていましたが、3年ほど前、家族との会話で聞き間違いが多くなるなど、耳が聞こえにくくなりました。

 21年9月、同病院で再生治療を受けると、音がよく聞こえるようになりました。「空調の音まではっきり聞こえてびっくりしています。あきらめかけていたジャズバンドの活動もできるようになりました」と喜んでいます。

 この治療は現在、大学病院など全国約400の医療機関で実施されています。

 ただ、帝京大溝口病院(川崎市)教授の白馬 伸洋のぶひろ さんは、「一部の医療機関で、再生治療を始めてから手術でなければ対応できないと分かるケースが見受けられます。手術も行える医療機関を選ぶとともに、事前にしっかりとした診察を受けることが重要です」と指摘しています。

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