医療大全
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続・不妊治療と養子縁組<5>養親への長期的支援を
「これから誰に子育てを相談すればいいのか……」
2020年夏、東京都のジュンコさん(47)(仮名)と夫(43)は、途方に暮れた。2人の娘たちとの特別養子縁組をあっせんした、都内の一般社団法人「ベビーライフ」(解散)が突然、事業を停止したからだ。
特別養子縁組は、生みの親が育てられない子どもと、子どもを育てたい夫婦(養親)が法的な親子関係を結ぶ制度。ジュンコさんは、約4年間の不妊治療の後、17年春に長女(5)を、翌年夏に次女(3)を、いずれも新生児の段階で迎えた。
特別養子縁組で結ばれた親子は、特有の課題に直面する。子どもに、生みの親がいると伝える「真実告知」をいつ、どうやって行うか、思春期に出自に悩んだらどう接すればよいか、など養親が迷うことも多い。
ジュンコさんに対応してくれた同法人の職員たちの説明は、丁寧で心がこもっていた。子どもが大きくなってからも、親身に相談に乗ってくれそうだ、と思えた。「ずっと一緒に子育てをするチーム」と信頼していただけに、廃業の衝撃は大きかった。
同法人は、養親や子ども、生みの親に関する書類を、所管する都に引き継いだ。都は当初、生みの親の情報を、養親に開示すると明言しなかった。ジュンコさんらは、都に情報の開示を求めると同時に、知り合いをたどって、同法人を通じて子どもを迎えた養親の交流の場も設けた。
活動を助けてくれたのは、特別養子縁組に関わる人を支援するNPO法人「ハピネスト」(東京)だ。代表の西田知佳子さんは、養親たちの不安に耳を傾けてくれた。今も、真実告知の方法などについて、具体的な助言をしてくれる。ジュンコさんは「頼れる場所を失った私たちにとって、ありがたい存在」と感謝する。
16年の児童福祉法の改正などで、特別養子縁組をあっせんする児童相談所(児相)と民間機関が、養親らへの相談支援業務を行うことが明記された。だが、実際は、縁組の成立後に、関係が途切れることは少なくない。ジュンコさんらのように、民間機関の廃業で相談先を失うケースもある。
特別養子縁組を望む夫婦の多くは不妊治療経験者だが、子どもを育てる選択肢としてまだ十分認知されていない。厚生労働省は今春から、治療を行う夫婦に対し、里親・特別養子縁組の情報提供を強化する。西田さんは「縁組だけでは、親子は幸せになれません。児相や民間機関の長期的な支援とともに、子育て支援を担う身近な市町村でも、養親の悩みの受け皿を作ることが望ましい」と指摘する。
(加納昭彦)
(次は「胃と十二指腸の潰瘍」です)
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