ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
入居者、近隣の子ども、仲間の犬たちからも慕われた被災犬「むっちゃん」…数奇な運命たどり、皆の心の中で今も生き続ける

優しいまなざしと穏やかな性格の「むっちゃん」に入居者も職員も癒やされた
2011年3月、福島原発事故の避難区域に取り残された被災犬の「むっちゃん」は、「犬猫みなしご救援隊」に救出され、同団体の運営する栃木県那須塩原市内のシェルターで1年近く過ごした後、動物愛護団体「ちばわん」の紹介で、2012年5月に、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」にやって来ました。ここからは、前回のお話の続きです。
当時、「さくらの里山科」は開設して1か月。まだ、入居者と同伴入居した愛犬はいませんでした。いたのは、保健所からやってきた保護犬の 文福 と大喜だけ。むっちゃんは推定10~12歳。文福と大喜は同2~3歳でした。むっちゃんは、年上だったことに加え、穏やかで面倒見のよい性格だったので、すぐに文福と大喜から慕われるようになり、自然とリーダー犬、あるいは長老犬のような存在になりました。翌年には、飼い主の独居高齢者が突然亡くなり、自宅に取り残されていたジローと、保護犬のアラシが入居してきましたが、次々と増えていく後輩犬たちを歓迎し、優しく見守ってくれました。
人懐っこいむっちゃんは、入居者にも職員にも大人気でした。体重20キロ・グラム。大型犬ではありませんが、けっこう大柄な犬です。真っ白で、もふもふした毛に覆われた大柄の体を抱きしめると、最高に幸せな気持ちになれました。入居者も職員も一緒に過ごすことで癒やされていました。私も、抱きしめた時の感触や、優しいまなざしを、死んで8年たった今でも、はっきりと覚えています。
また、散歩に出かけると、近隣の子どもたちからも人気でした。触られても絶対に怒らず、穏やかになめるので、みんな大喜びしていました。その結果、何と、子どもたちが、ホームのむっちゃんに会いに来るようになったのです。近隣の子どもたちが普段から遊びに来る特別養護老人ホームというのは極めて珍しいと思います。遊びに来てくれたのは、残念ながら、むっちゃんがいた時だけですが。まさに、むっちゃんの素晴らしい人徳、いえ「犬徳」のなせる技だったのです。
ホームにやって来た時、むっちゃんは、既に中型犬の平均寿命を超えつつある、かなりな高齢犬であり、クッシング症候群という病気も患っていましたが、まだまだ元気でした。文福たちと一緒に、ホームのドッグランを走り回ることもできました。
しかし高齢と持病のため、段々、足腰が衰えていきました。あるいは、もしかしたら、福島原発事故の避難区域に取り残された2か月間のサバイバル生活の影響もあったのかもしれません。ホームに来て1年以上がたった2013年6月、とうとう立てなくなってしまいました。
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