ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
病気持ちで新たな飼い主もいない被災犬「むっちゃん」…善意のリレーで開設間もない「さくらの里山科」へ

「むっちゃん」(左)と後輩犬の「大喜」。人懐っこいむっちゃんは、入居者、職員の人気者に
ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で開設当初の2年間を暮らした被災犬の「むっちゃん」は、東日本大震災の時の福島原発事故で全町避難となった福島県楢葉町に取り残された犬でした。そして、むっちゃんと兄弟犬を救出してくれたのは、動物愛護団体の人「犬猫みなしご救援隊」でした。さて、前回のお話の続きです。
むっちゃんを救い出した時、同団体のボランティアスタッフさんは、一緒にいた兄弟犬とむっちゃんを親子だと思い、むっちゃんを息子と判断し、息子の「む」をとって、むっちゃんと名付けたのだそうです。スタッフさんらは、名前も飼い主もわからない犬たち、猫たちをこうして必死に救出してくれていたのです。むっちゃんの命を助けてくれた、「犬猫みなしご救援隊」に、私は心から感謝しています。いいえ、それだけではありません。同原発事故で避難を強いられた区域に取り残された犬たち、猫たちを命がけで救出してくれたボランティアの皆さんすべてに深く感謝しています。
助け出された時、大けがをしていたむっちゃんは、「犬猫みなしご救援隊」によって治療と手厚い看護を受け、元気になりました。同団体は、多くの犬と猫を原発事故の避難区域から救出し、その犬と猫たちを保護する施設として、福島県の隣にある栃木県の那須塩原市に大型のシェルターを開設しました。むっちゃんと兄弟犬もそこで暮らし始めます。
この施設は、東日本大震災直後、東北で被災した多くの犬と猫を救助、保護しました。その活動が評価され、公益財団法人社会貢献支援財団から、2012年度(平成24年度)社会貢献者表彰を受けています。同シェルターでは、現在でも常時、300~500匹の犬、猫を保護しています。これまで救ってきた命は、数千匹にのぼるでしょう。
シェルターといっても、犬舎、猫舎は冷暖房完備で、犬が運動できる広い庭もあり、犬猫が快適に暮らせる環境が整っていました。犬たち、猫たちの世話も、ボランティアスタッフがしっかり行います。本来ならむっちゃんも、シェルターで問題なく暮らせたのですが、むっちゃんには「クッシング症候群」という病気があったのです。
クッシング症候群とは、コルチゾールというホルモンが副腎から過剰に出続けることにより、高血圧や糖尿病、肥満、筋力低下、骨粗しょう症、うつなどの症状を引き起こす病気です。人間の病気として聞いたことがある人もいるでしょうが、犬でも発症することがあります。犬における症状としては、多飲多尿、呼吸が速くなる、おなかが膨れる、足腰が弱くなるなどが挙げられます。むっちゃんも足腰が弱り、全体的に元気がなくなっていました。
クッシング症候群の犬でも、特別なケアが必要なわけではありません。しかし、同症候群に限らず、持病がある犬の世話は大変です。服薬管理をし、常に体調を気にしていなければなりません。犬猫みなしご救援隊の栃木のシェルターは、シェルターとしては最高の環境でしたが、大勢の被災犬、被災猫が保護されていますので、普通の家庭のようなきめ細かな世話は困難です。むっちゃんは、シェルターよりも普通の家で暮らすことが望ましいと思われました。
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