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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

死期近い60代子宮がん患者 付き添い疲れの夫と子に、看護師は帰っていいと言えず…「最期のとき」と家族

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 60代の子宮がん患者。夫(70代)と2人暮らしで、長男夫婦(30代)、長女(40代)がいる。子宮がんのステージIVと診断されてから1年足らずであった。緩和ケア病棟へは、1週間前から入院している。患者は一日中、傾眠傾向であるが、看護師が声をかけると「痛くないです」などと、短い受け答えはできる。腎機能が低下し、急変する可能性があったため、いったんは家族に夜間の付き添いを依頼した。その後、病状がやや安定したことから、付き添いについては、病棟からの依頼ではなく、家族の希望に応じるという方針へ変更になった。

交代でベッドサイドの椅子に座り

死期が近い60代子宮がん患者 付き添いで疲れた夫と子に「帰っていい」と言えず…看護師が恐れる「間に合わなかった」

 昼間は主に夫、夜は仕事を終えた長男、長女が病棟へ駆けつけ、ベッドサイドの椅子に座って、交代で見守っていた。本人はウトウトしているが、時々、「頭を上げたい」「水を飲みたい」などと言うため、家族は常に気にかけていた。眠っている時も、苦しそうな様子はないか、表情や仕草に敏感になっていた。そのような日々が1週間続いた。

 看護師は、「今、心身が疲労し過ぎてしまっては、これからの付き添いにも影響がでるので、休めるときは休んでほしい」と思いましたが、その後も家族の付き添いは続きました。

 ある日のこと、ナースコールがあって病室に行くと、夫が「苦しそうにするときがあるんです」と訴えた。長女は「苦しそうで見ていられない」。どのような様子だったか聞くと、「顔をゆがめて苦しそうだった」と言う。看護師は、「おつらさが取れるよう、一つずつ考えていきましょう」と体位を調整し、一緒に患者さんの様子を見て、「痛み止めを追加するなどの方法もありますから、医師に相談してみますね」と伝えた。

 その日の夕方、長男から「ちょっと家族室で休んできていいですか。ここ(病室)だと休めなくて。家族もみんな疲れてきちゃって」と話があり、看護師は「ご本人もよく眠られているようなので、夜はご自宅にお帰りいただいても大丈夫だと思います。何か変化があったらご連絡します」と伝えた。しかし、「別に大丈夫ですよ。そばにいても何もしてやれないけど」と言う。看護師は「お母さまも、みなさんがそばにいる雰囲気を感じて、きっと安心されていると思います」と伝え、病室をでた。

昼夜の付き添いで疲れ…

 緩和ケア病棟で働く看護師が語ってくれたケースです。予断を許さない状況が続いていたものの、家族は昼夜の付き添いで疲れており、看護師は「夜は帰宅してもよいのではないか」と感じたそうです。しかし、その一方で、「家族が見守る中で息を引き取るとかどうかは重要なこと。『間に合わなかった』ということが、その後の家族の悲嘆に強く影響すると思うと、『帰ってよい』とは言えず、ねぎらうことしかできなかった」とも話しています。

 この緩和ケア病棟では、心電図モニターの装着はしていないため、看護師はバイタルサインとあわせて、患者さんの息遣いや手足の温かさなどから、総合して「最期のとき」を予測しています。そのため、家族がいない時間帯は、「家族はここまで頑張って付き添ってきたのだから、息を引き取るときは家族みんながそろうよう、患者の変化を察知しなくては……」と、看護師のプレッシャーが増すことも明かしてくれました。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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