医療ルネサンス
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医療ルネサンス
続・不妊治療と養子縁組<2>養親の気持ち試す行動
「ママ、今日、学校で友達にいじわるされてな……」
和歌山県の自宅で、湯船につかるトモコさん(50)に、小学4年のユイさん(10)(いずれも仮名)が語りかけた。先生や親友にも言えない愚痴や悩みを、信頼する母には、打ち明ける。
ごくありふれた親子の光景。でも、トモコさんは、「ここまで信頼関係を築くには時間がかかりました」と振り返る。
トモコさんと夫(52)は2015年、生みの親が育てられない子と、子を育てたい夫婦が法的な親子関係を結ぶ特別養子縁組で、ユイさんを長女として迎えた。
ユイさんは当時3歳半。最初はおとなしかったが、1か月もすると、様々な問題行動を起こし始めた。
わざとうどんの汁を床にこぼす。1か所の公園では満足せず、5~6か所を回る。思い通りにならないと、トモコさんをたたく――。養子には珍しくない「試し行動」だった。
赤ちゃんは、おなかがすいた時や眠い時に、泣いて訴える。授乳したり、抱っこしてあやしたりするなど、不快さを取り除いてくれる人に安心感を持つ。その繰り返しで、愛着関係が築かれる。民間あっせん機関の公益社団法人「家庭養護促進協会」理事の岩崎美枝子さんは、試し行動について、「幼い頃に愛着形成がうまくいかなかった子どもが、新たに自分を育てる養親に対して、どんなに悪いことをしても、ちゃんと受け止めてくれるかを確かめようとするのです」と解説する。
ユイさんの場合、生後2か月で頭蓋骨を骨折し、救急搬送された。「ソファから落ちた」。母親はそう主張したが、虐待を疑った児童相談所がユイさんを乳児院に預けた。
生後まもなく過酷な経験をした上、複数の職員が世話をする乳児院では、特定の大人と安定した愛着関係を築くことが難しい。
「無条件にすべて受け入れて」。乳児院の臨床心理士から事前にもらっていた助言の通りに接してみた。抱っこをせがまれれば、ユイさんが納得するまで、何時間でも抱っこした。半年もすると、試し行動はうそのようにおさまった。
トモコさんは20年2月、かつて不妊治療で通った「IVF大阪クリニック」(東大阪市)の患者の集まりで、これまでの体験をありのままに話した。引き受けたのは、治療がうまくいかずに、養子を迎える道を考え始めた時、当事者の声を聞ければ役立ったと思うからだ。
不妊治療で子どもを授かるより、苦労したかもしれない。「だからこそ、娘と真剣に向き合い、本当の親子になれた。血は関係なく家族になれます」
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