森本昌宏「痛みの医学事典」
頭痛、腰痛、膝の痛み……日々悩まされている症状はありませんか? 放っておけば、自分がつらいだけでなく、周囲の人まで憂鬱にしてしまいます。それだけでなく、痛みの根っこには、深刻な病が潜んでいることも。正しい知識で症状と向き合えるよう、痛み治療の専門家、森本昌宏さんがアドバイスします。
医療・健康・介護のコラム
家族に「顔がゆがんでいる」と言われた55歳男性 症状を改善させた「星状神経節ブロック」とは?
Kさん(55歳、男性)は、ある朝、歯磨き時に左の口角から水がもれて、うがいができないことに気付いた。家人から「顔がゆがんでいるみたい」と指摘され、その日のうちに市民病院の耳鼻科を受診した。耳鼻科では「特発性顔面神経まひ」と診断され、副腎皮質ステロイド薬の点滴を10日間にわたって受けた。これにより、うがいはできるようになったが、左目を完全に閉じることができない。そのため、「星状神経節ブロックを」と希望し、私たちのクリニックへ紹介受診となったのである。
さまざまな頭痛、突発性難聴、アレルギー性鼻炎にも
体のさまざまな機能を調節している自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は血管を収縮させてエネルギーを発散させる機能を担い、副交感神経は血管を拡張させてエネルギーを蓄積する働きを持っている。交感神経が興奮すると、気管支が拡張し、血管が収縮して血圧は上昇、手に汗を握り、瞳孔が開いて、体毛が立つとの生理現象が起こる。星状神経節は、首(7番目の 頸椎 の辺り)に左右一対で存在する交感神経の合流点(神経節)であり、頭部、顔面、胸部、上肢などの血液の流れを調節している。この神経節に、リドカインやメピバカインといった短時間作用型の局所麻酔薬を4~8ミリ・リットル注入する治療法が「星状神経節ブロック」である。
その神経節が担っている機能から、頭部、顔面、胸部、上肢に痛み、しびれ、血流障害などをきたす病気が対象となる。さまざまな「頭痛」、「帯状 疱疹 痛」や「帯状疱疹後神経痛」「複合性局所 疼痛 症候群」(損傷自体が治っても痛みが残る病態)、上肢の血流障害による痛みのほか、「顔面神経まひ」「突発性難聴」「アレルギー性鼻炎」、さらには「網膜色素変性症」や「網膜中心動脈 閉塞 症」に対しても行われている。ストレスによる「肩こり」なども交感神経の過緊張に起因していることが多く、適応と言えるだろう。
局所麻酔薬が注入されると顔がポカポカ
Kさんには、週に2回の割合で計20回、星状神経節ブロックを行ったところ、左目を閉じることが可能となり、洗顔時に目に水が入ることはなくなった。実は私も、「頸椎椎間板ヘルニア」による痛みに悩まされた時期に、このブロックを数回受けたが、局所麻酔薬が注入された途端に、顔面がポカポカとして手のひらの汗が全く出なくなったのには驚いた。顔や手の痛み、しびれで悩んでおられる方は、ペインクリニックで、星状神経節ブロックの適応について相談されてみてはいかがだろうか?
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。