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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track23】「できる人」がぶつかった「昇進ストレス」。すご腕ナースの不眠症と覚悟

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適性検査のコメントに自信を失った

 陽子さんは、私の外来にやってきました。不眠、頭痛の様子とこれまでの経緯をうかがいました。ただ、この時の彼女をひどく悩ませていたのは、事務局から勧められた管理者向けの適性検査票の結果でした。管理者への人事については、自身のキャリア形成の面でも積極的に受けようと決心した陽子さんでしたが、適性検査の結果コメントに自信をなくした様子でした。陽子さんは、不安そうに訴えます。

 「今週、この適性検査の結果をもとに、職場の運営団体・事務局との面談があります。たくさんのコメントが書かれていて、自分でも認識すべき課題があるのですが、どう解決策を立てて、面接のときにどう答え、説明したらいいのか……、不安だらけです」

 私もその検査結果のコメントを見せてもらいながら、陽子さんが特に不安に思っていることを尋ねてみると、

 「私の弱みとして挙げられているのはストレス耐性の弱さ、人間関係構築能力の低さ、それにコミュニケーションとリーダーシップの相関性が困難などです。これらの課題にどう対策を立てていけばいいのか、方向性がみえません」

 「コミュニケーションとリーダーシップの相関性が困難……ですか。どれも難しい表現になっていますね。さて、どこから取りかかりましょうか?」と言いつつ、私もその課題について整理を進めました。

心理検査の結果は「ナイチンゲールタイプ」

 確かに、適性検査の結果コメントは、やや難解な文章で書かれており、かつ批判的な内容にウェートが置かれているきらいがありました。それを読解し、受検者の欠点というよりも、むしろ「伸ばすべき課題」と解釈した上で、陽子さんとすり合わせながら整理していきました。

 その結果、〈1〉自分のストレスと対処法を知る〈2〉人間関係上の自分のクセを知る〈3〉聴く力と伝える力を伸ばす、の三つを優先課題として、その解決にむけた具体策を準備して、後日の面接に臨むことにしました。

 「ところで、その面接はいつなんですか?」

 「明後日です」

 あまり時間の猶予はありません。

 そこで私は、とりもなおさず陽子さんに、心理検査「エゴグラム」を受けていただきました。自分の人間関係上の特徴、例えば、相手との交流や会話において、どんな気持ちで接する特徴があるのか、その傾向を知るための簡便な検査です。陽子さんは、速やかに質問に回答し、私はその場で判定することが出来ました。

 見事な「献身(ナイチンゲール)」タイプでした。19世紀の英国で、クリミア戦争下の負傷兵たちへの看護と環境を重視した衛生改革から「クリミアの天使」とも称された看護師、フローレンス・ナイチンゲールにちなんで、エゴグラムの型別に、通称「ナイチンゲール型」と呼ばれるタイプがあります。現実のナイチンゲール自身は、他者への献身は実践しても、自己犠牲については否定したのですが……。

 他人を肯定し、いたわることが多い反面、自身は否定しがち。環境や組織には順応する力が強い反面、自分自身は安穏と楽にいられない。「出来るタイプ」「おりこうさん的」である反面、自己犠牲的な時間が心理的な負荷となってしまいがちな傾向が見て取れました。私は、この判定(解釈)を陽子さんに説明しました。

 「はああ……、今まで漠然とモヤモヤしていた自分の特徴、出ちゃうものなんですね」

 「さっきの三つの課題への対策は、この結果からひも解いてもいいんじゃないですか」

 陽子さんは賢明な看護職です。エゴグラムに表れた自身の心の成分(自我状態)とストレス対処に関するわかりやすい書物を手渡しました。とりあえず、明後日の面接に向けた自己課題の認識と対策の回答は可能だと思われましたが、「今、ここ」でのサポートを私はもう少し加えてみました。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2021年5月には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 「リンゴの赤」 をリリースした。

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