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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

文福がまた“看取り活動”を…自分の意思で誇りを持って行っていると私は信じている

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文福がまた“看取り活動”を…自分の意思で誇りを持って行っていると私は信じている

安井さんに寄り添う文福

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で、ホームの飼い犬「 文福(ぶんぷく) 」(元保護犬、中型の雑種、推定12~13歳)が、また、入居者を“ 看取(みと) り”ました。

 「さくらの里山科」はユニット型の特別養護老人ホームです。ユニットとは、入居者の居室10室(完全個室制)、リビングダイニング、3か所のトイレ、浴室、脱衣室で構成されている区画です。玄関もあり、いわば10LDKのマンションのような空間なのです。定員は120人ですので、全部で12ユニットあり、建物の2階~4階の各階に4ユニットずつ配置されています。このうち、2階の二つのユニットが犬と暮らせるユニット、残り二つが猫ユニットなのです。

 ユニットの中で、犬たち、猫たちは自由に暮らしています。普通の家庭で飼われている犬や猫と同じです。ホームはバリアフリー構造なので、居室の扉は引き戸(スライド式のドア)になっており、「文福」は自分で開けることができます。ですから「文福」は普段は、ユニット内の全ての部屋に自由に出入りし、勝手にベッドに潜り込んだりしています。

 なお、犬ユニットのご入居者は、事前にそのような状況を承知されており、犬ユニットがいいと希望された方のみですので、犬が自由に出入りすることに全く問題はありません。逆にそれを喜ばれています。

 ちなみに、動物嫌いの方や、アレルギーの方は、3階、4階の一般ユニットに入居していただきます。ペットは3階、4階には入れませんので、猫毛アレルギーのある入居者の方も問題ありません。

 話がそれましたが、文福はそのようにユニットの中で自由に過ごしています。しかし特別な事情がある時だけは、特定の居室に入ろうとしません。その居室の入居者に逝去が近いことを“察知”した時です。

 「さくらの里山科」では、年間40人近い入居者が逝去されます。これは特別養護老人ホームでは普通のことです。非常に高齢で重度の状態の方ばかりが暮らしているためです。逝去される理由は老衰が多いのです。がん等の別の病名がつく場合でも、実質的には老衰によるものだと私たちは思っています。

 老衰で亡くなる場合の典型的な状況は、食べ物も水分もだんだん取れなくなり、木が枯れるように自然に亡くなっていくというものです。この段階でも、入院して点滴等を受けることにより、延命することは可能です。しかし、「さくらの里山科」の場合、ほぼすべての入居者とそのご家族は、延命措置を希望されず、ホームで自然に最期を迎えることを希望します。そこで、逝去されるまでの少しの期間、ホームでの看取り介護(ターミナルケア)が始まります。

 安井孝子さん(90歳代、女性、仮名)は、今月に入り、看取り介護体制が始まりました。始まって3日目のお昼過ぎ、文福が安井さんの部屋の扉の前に座り込んでうなだれていました。安井さんはもう何も食べられない、水を飲むこともできない状態とはいえ、まだ体調は安定していたので、この時はユニット長の坂田弘子(仮名)も、文福の行動を見過ごしてしまいました。

 ところが、その数時間後、文福は部屋の中に入り、ベッドに上がると、安井さんに寄り添ったのです。さすがにこの時は、坂田は文福の様子が普段と異なることに気が付きました。文福は普段から、入居者のベッドに上がり込み、一緒に寝たりしているのですが、それとは明らかに雰囲気が異なっていたのです。いつも陽気な文福が、沈み込んだ様子だったのです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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