Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
医療・健康・介護のコラム
乳がんで「遠隔転移がある」と言われました。どんな薬が使えるのですか?

イラスト:さかいゆは
遠隔転移のある乳がんに対しては、「がんとうまく、長くつきあう」ことを目標に、主に薬物療法を行います。乳がんにはいくつかの種類があって、その種類ごとに使用する薬が異なりますので、まずは、ご自分の乳がんの「型」を知っておくことが重要です。
乳がんには四つの「型」
乳がんの種類を見分けるのに重要なのが、がん細胞にみられる「ホルモン受容体」と「HER2(細胞増殖にかかわるタンパク質)」で、これらが陽性か陰性かによって、「ホルモン型」「HER2型」「ホルモン+HER2型」「トリプルネガティブ型」の四つに分けられます。ホルモン受容体陽性の「ホルモン型」「ホルモン+HER2型」では、ホルモン療法の効果が期待でき、HER2陽性の「HER2型」「ホルモン+HER2型」では、HER2を標的とする分子標的治療薬(抗HER2薬)の効果が期待できます。
「ホルモン型」では、ホルモン療法または抗がん剤が使われ、「HER2型」では、抗HER2薬と抗がん剤が使われ、「ホルモン+HER2型」では、ホルモン療法も抗HER2薬も抗がん剤も使われます。「トリプルネガティブ型」は、2種類のホルモン受容体とHER2がすべて陰性ということから、この名前になっているのですが、主に抗がん剤が使われます。
以下、具体的な薬の名前を挙げていきますが、このコラムでお伝えできることには限りがありますので、ご自身の状況にあった選択については、担当医とよく相談してください。また、ここでは、「トラスツズマブ」のように薬の一般名で書いていますが、病院では、「ハーセプチン」のように商品名で呼ばれることも多いので、この点もご注意ください。
「横綱クラス」から「前頭クラス」まで、抗がん剤の効果や副作用はいろいろ
抗がん剤は、基本的に、すべての型で使われます。私が患者さんに抗がん剤の選択肢を説明するとき、効果の期待が比較的高いものから、「横綱クラス」「大関クラス」「前頭クラス」に分類してみることがあります。
横綱クラスとしては、タキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)や、アントラサイクリン系抗がん剤(アドリアマイシン、エピルビシンなど)を挙げます。パクリタキセルについては、分子標的治療薬のベバシズマブとの併用も候補となります。トリプルネガティブ型では、カルボプラチンとゲムシタビンの併用を、横綱クラスとして紹介することもあります。
大関クラスとしては、エリブリンや5-FU系内服抗がん剤(エスワン、カペシタビン)を挙げ、さらに、前頭クラスとして、ゲムシタビン、ビノレルビンなど、様々な抗がん剤があることをお伝えします。
横綱クラスは、効果が期待できる一方で、副作用がきつい傾向もありますので、そのバランスを慎重に判断する必要があります。副作用と一口にいっても、種類はいろいろですし、個人差もありますので、一概に強い弱いを分けられるわけではありません。効果も副作用も「やってみないとわからない」という側面がありますので、まずは試してみる、という考え方もあります。また、脱毛のように、患者さんごとに受け止め方が異なる副作用もありますので、自分の価値観をきちんと担当医に伝えることも重要です。
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