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石蔵文信の「男と女の楽しい更年期!」

医療・健康・介護のコラム

家庭内の対立が炎症を引き起こす!?…夫婦不仲の健康被害

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 夫婦の仲の良さや悪さを数値化するのは大変困難なことです。私が男性更年期外来で夫を診察していると、付き添ってきた妻の体調が悪いことに気が付くことがよくありました。受診する男性の平均年齢は50歳過ぎですから、妻もいわゆる更年期の年代の人が多いように思います。外来に来られた夫は心身ともに疲れ果てていますので、当然、男性に向けての診察を主にしていました。しかし、男性の症状が改善してくると、今度は妻の体調の方が気になります。多くの女性は更年期外来や女性外来などを受診し、ホルモンの補充や漢方治療を受けていますが、一向に改善しないのです。だいたい3~5年ぐらい通院している方が多かったように思います。

次から次へと夫への不満が

家庭内の対立が炎症を引き起こす!?…夫婦不仲の健康被害

 私の専門は循環器と男性更年期ですので、女性を診察することには慣れていませんでした。しかし、あまりにもつらそうにしている妻が多かったので、相談に乗ることにしました。

 妻だけに面談すると、次から次へと夫への不満が噴き出してきます。次は、私の前で、それらの不満について夫婦で話し合っていただくことにしました。そうすると当然、夫婦げんかになりますが、さすがに私が目の前にいるので大事にはなりません。そのようなカウンセリングを数回繰り返しているうちに、なんと妻の更年期症状はすっかりと良くなるのです。

 そのような事例は数人ではありませんでした。何十人もの女性患者が、次々と改善していくのでした。平均3か月ほどで良くなりますが、1回の診察で改善した人もいます。

 そこで私は、妻の更年期障害の原因に「夫のストレス」があると考えました。

 さぁ、ここからが問題なのです。大学で研究していたくせなのか、夫婦関係の悪さを客観的な指標として数値化できないかと考えました。それができないと科学的な論文が書けないのです。しかし、どう考えても、夫婦関係の悪さを客観的な数値にするのは困難です。そのため私は論文を書くことを断念して、一般書として、大阪大学出版会から「夫源病」を出版しました。

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夫婦の激しい対立が炎症を引き起こす?

 その後も、夫婦仲の悪さを客観的に評価することなんか難しいと思っていたら、面白い論文を発見しました。米国のJanice K.Kiecolt-Glaser先生は、夫婦の激しい対立が細菌外毒素を放出して炎症を引き起こし、健康被害をもたらすのではないか?との研究発表をしました。(Psychoneuroendocrinology.2018.98.52-60)

 今まで、夫婦の不仲がいろいろな病気を悪化させるということは示されていましたが、今回の研究では、腸内の細菌毒素に注目しています。その方法と内容はかなり専門的なので省きますが、43組の健康な夫婦を対象に、意見の対立が起こりそうな話題を20分間、話してもらい、その模様をビデオに収録したようです。そして、その前後に採血を行って炎症性の物質を検討しました。「敵意の強さ」は、目の動きや言動から判定しています。その結果、敵意の強かった夫婦は、炎症のマーカーが増加していたそうです。私が知る限り、夫婦不仲の健康被害を科学的に調査した貴重な論文だと思います。

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石蔵文信(いしくら・ふみのぶ)

 内科・循環器・性機能専門医。大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。大阪市内と都内で男性更年期外来を担当。主な著書に『夫源病』(大阪大学出版会)、『男のええ加減料理』(講談社)、『なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略』(幻冬舎新書)など。自転車による発電に取り組む「日本原始力発電所協会」代表を務め、男性向けの「ええかげん料理」の教室を各地で開くほか、孫育てに疲れた高齢者がネットで集う「孫育のグチ帳」を開設するなど多彩な活動をしている。ホームページは「男性更年期 夫源病 石蔵文信

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