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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳

介護・シニア

呼び出されることはあります…訪問診療医が語る「埼玉立てこもり事件」 肉親の死後に湧く「怒り」とどう向き合うか

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 埼玉県ふじみ野市で先月下旬に発生した発砲・立てこもり事件。92歳の母を看取った息子が訪問診療の医師らを自宅に呼び出し、猟銃で医師を射殺する理不尽さが衝撃的でした。訪問診療を専門に首都圏17か所の診療所で年間1200人をみとり、新型コロナウイルスの診療にも力を尽くす悠翔会理事長で医師の佐々木淳さんも、驚きとともにニュースを受け止めました。「肉親の死を前に、家族が医療者に怒りを向けることは珍しくありません。それにしても猟銃で撃たれるとは……ショックです」。この事件をトラウマ的に受け止めるスタッフがいるかもしれないと、グループ全体で今後、事件についての意見交換をしていくと言います。この事件について、佐々木さんに聞きました。(聞き手・渡辺勝敏)

つらい事柄を受け入れるまでには感情のプロセスがある。怒りもそのひとつ

――訪問診療の中で、患者や家族とトラブルになった経験はありますか。

 私自身も、怒りを向けられて殴られたり、ひやっと感じたりしたことは何度かあります。しかし、本当に命を奪われる事件になってしまうとは考えたことがなかったので、ショックと言えば、ショックでした。

――肉親を失った後でどうして怒りが湧いてくるのでしょうか。

 自分の命が残り少ない、肉親が亡くなるといったつらい事柄を受け止めるプロセスというのがあります。最初は、「そんなはずはない」と事実を感情的に否認しようとします。それを現実として受け入れる過程で、強い怒りを感じる方がいます。「どうして俺だけがこんな目に遭うんだ」「あの時、病院がちゃんとやってくれなかったからこうなった」……。

 そして、「本当に助けはないのか」とセカンドオピニオンを求めて他の医者を回ったり、高額な健康食品や自費治療に向かったりといった行動をとられる方もいます。それでも現実を変えられないことがわかると、落ち込まれてしまいますが、最終的には「病気は治せなかったけど、いい人生だった」「よく頑張った」と受容される方が少なくありません。しかし、中には、怒りの中から抜けきれない人もいます。

怒りが身近な医療者や介護スタッフに向かうことも

――その怒りの矛先が、医療者や介護のスタッフに向かうことがあるわけですね。

 怒りをだれにぶつけていいかわからない時に、日常的にかかわっているヘルパーさんや看護師さんに向かっていくことはよくあります。医者には距離を感じるのか、直接ぶつけられることは少ないのですが、代わりに、ヘルパーさんに医者への不満をぶつけることがあるようです。

――この事件のケースについては、どのように見ていますか。

 やはり、お母さんが亡くなったという事実の受容ができなかったのだと思います。ご遺体と向き合っているうちに、ふつふつと怒りが湧いてきて、その怒りのやり場ですね。家族や友だちがいて、「お母さん頑張ったよね」と声をかけてあげるような関係があればよかったのかもしれません。臆測になってしまいますが、社会と唯一つながる相手がお母さんだったとしたら、母親を失った喪失感は大きくて、受容は大変だとは思います。湧き上がってくる怒りの矛先が、おそらく日常的に一番会話の多かった医療や福祉の関係者に向かったのではないでしょうか。

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1998年筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。2021年 内閣府・規制改革推進会議・専門委員。首都圏ならびに沖縄県(南風原町)に全18クリニックを展開。約6,600名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行っている。

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