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学校からダメ出し、栗原類君だけ「できません」…母は「人と比べる子育てするまい」
俳優・栗原類さんを育てた栗原泉さん 52<上>
舞台に映画、ドラマやバラエティー番組と、活躍の場を広げるモデルで俳優の栗原類さん(27)。発達障害と向き合いながらも、その才能と可能性を信じて見守り続けてきた母・泉さん(52)に、これまでの道のりを語ってもらった。
昨年10月から全国の映画館で公開された『劇場版 ルパンの娘』。大阪市内のシネマでも、類さん 扮 する天才発明家のコミカルでパワフルな演技に観客が引き込まれていった。
「スクリーンや舞台で息子の姿を 観 るたびに、役柄の心情に寄り添った演技ができるようになってきたと成長を感じますね」
泉さんが類さんを授かったのは25歳の時。父親はイギリス留学中にロンドンで知り合った英国人だったが、「結婚はしないという選択をして」日本に帰国。東京でシングルマザーの道を歩み始めた。
それまで米ニューヨークで4年、ロンドンで1年、音楽の勉強をしてきた経験を生かし、雑誌にアーティストのライブリポートを掲載したり、インタビューを日本語に訳したりと、音楽ジャーナリストとして暮らしを支えた。
1歳から保育園へ通い始めた類さんは、大きい音や雑音にひどく不快感を示す子だった。
「特に園児のがなり立てるような声が苦手で、子どもたちの合唱が始まると、いつも耳を塞いでしゃがみ込んでいました」
家の中では、泉さんの専門でもあったブリティッシュロックやブリットポップがずっと流れていた。が、そうした音楽には、心地よさそうに体を揺すり、リズムを楽しんでいた。
「好き嫌いがはっきりしていて、戦隊ヒーローものなんかには全く興味を持たず、砂遊びをひどく嫌がるなど、子供らしい関心をあまり示さないところもありましたね」
家庭では、英語と日本語が飛び交い、1か月くらいのまとまった期間でロンドンとニューヨークに何度も滞在、現地の保育園にも通わせてもらった。
「いずれ海外で子育てすることを視野に入れた準備期間でもありました。たまたま類がニューヨークの保育園をとても気に入ったので、5歳の時に本格的に渡米しました」
小学校も現地の公立校に進学したが、英語でのコミュニケーション不足もあってか、周囲と衝突することが多かった。
「クラスメートの笑い声が聞こえただけで、自分をバカにしていると思い込み、押し倒したり、かみついたりとトラブルになることも。冗談も通じず、担任からは『笑いやユーモアのセンスをもっと身につけて』と言われ、意識してコメディー番組を見せるようにもしました」
衝動的な行動だけではなく、集中力が続かなかったり、物事の習得が遅かったりと、「類君だけこれができません」といったダメ出しも続いた。
「誰も評価してくれないのなら、せめて親だけでも褒めてやりたいと、いつの間にか子どもの良い所を見つける努力をするようになっていましたね」
長期休みに一時帰国した際、通わせてもらった東京の小学校では、校長から「類君だけ漢字で自分の名前が書けません」と言われたが、とっさに「でも、アルファベットで名前が書けるのは類だけですよね」と切り返し、黙らせたこともあった。
「人と比べる子育てだけはするまいと思ってきたので、『A君はできるのに、どうしてあなたはできないの』といった言い方は一切しませんでした」
できるようになったら褒めるのではなく、今できていることを褒める。わずかでも本人が努力したり工夫できたりしたことについては手放しで褒め、なんとか勉強にも意欲がわくよう背中を押してきたが、担任からは「このままでは進級できません」と留年をほのめかされることもあった。
発達障害の可能性を指摘され、テストを受けるよう勧められたのは1年生の終わり。IQテストの他、行動観察や専門医の診察などを経て、数か月後にいよいよニューヨーク市の教育委員会で審査会が開かれることになった。当日、集まったのは、担任をはじめ、精神科医や児童心理学者ら。
◇
緊張して審査会に臨んだ泉さんに、冒頭、専門家から告げられたのは意外な言葉だった。
◆ 発達障害 =衝動的に行動しやすい「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、対人関係を築くのが苦手な「自閉スペクトラム症(ASD)」、読み書きや計算が不得意な「学習障害(LD)」などがあり、複数のタイプを併発することもある。生まれながらの脳の機能障害が原因とされる。文部科学省の2012年の調査では、公立小中学校の通常学級に在籍する児童生徒の6.5%に可能性があるとされている。
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