ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
愛犬ナナちゃんを守るため入居した難病の飼い主、リハビリで励まし合い…やがて飼い主を看取り、逝ったナナちゃん、葬儀に職員は皆泣き崩れた
このコラムで以前紹介した、キャバリアのナナちゃんが先月、死にました。8歳。シニア犬と呼ばれる年齢にはなっていましたが、まだまだ若すぎる死でした。
ナナちゃんと飼い主の渡辺優子さん(仮名、80歳代女性)は2016年10月、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に一緒に入居しました。
渡辺さんは、進行性 核上性麻痺 という、脳の神経細胞が徐々に減っていき、だんだん筋肉や関節が動かなくなっていくなどの難病を患っていました。不自由な体で床をはうようにしながら、必死にナナちゃんとの“2人暮らし”の生活を送っていました。自分が食事を取るのが難しくなっても、ナナちゃんだけにはご飯を必ずあげるというような日々でした。ところが、そんな暮らしを続けるのは限界に達していました。渡辺さんの娘さんは、ナナちゃんは自分が預かるから老人ホームに入るべきだと、何回も説得したのですが、渡辺さんは「ナナちゃんと離れるのは嫌だ」と、老人ホームへ入居を拒んでいました。
そんな時、娘さんが、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」の存在を知り、勧めてみました。それを聞いた渡辺さんの第一声は「そこに行けばナナちゃんは安全なのかい」でした。ナナちゃんの世話をするのも、もう困難だと感じていた渡辺さんは、自分のことではなく、ナナちゃんを守るためにホーム入居を決めたのです。
「さくらの里山科」に入居した渡辺さんとナナちゃんは生き生きとしていました。つらいリハビリも、ナナちゃんと少しでも長く一緒にいるためにと、必死に頑張って取り組んでいました。
渡辺さん以外の人間に会ったことがなかったナナちゃんは、最初はベッドの中にもぐって出てきませんでした。外の世界が怖かったのです。しかし、渡辺さんのために外に出てくるようになりました。渡辺さんが、ナナちゃんが座ったカートを押して廊下を歩くというリハビリを始めたからです。それはナナちゃんにとって、外の世界に慣れるためのリハビリになりました。励まし合うように映る“2人”のダブルリハビリ。お互いのために頑張っていたのです。
渡辺さんとナナちゃんは、一緒にいろいろな所に出かけました。海辺のレストラン、ショッピングセンター、初詣に神社にも。どこへ行っても“2人”はとても楽しそうでした。ホームの中で毎週開催する喫茶店イベントにも毎回欠かさず参加していました。車いすに乗っておいしそうにコーヒーを飲む渡辺さんと、その膝の上でくつろいでいるナナちゃんの姿は、イベントの名物になりました。
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