楢戸ひかる「シニアライフの羅針盤」
「人生100年時代」と言われるようになりました。この長い後半生、「今まで通り」のやり方では乗り切れないかもしれません。やがて来る「シニアライフ」を実りあるものにするためには、今、どんな備えをしておけばいいのか? お金のこと、そしてお金以外のこと……マネーライターの楢戸ひかるさんと一緒に考えていきましょう。
介護・シニア
「お城」もあれば「大工部屋」も 世界の介護施設を知るジャーナリストに聞く…「日本の介護」の未来は?
個人主義のフランス お城で老後を過ごす人も
――介護には、その国の主義主張が色濃く出ますね。
殿井: 主義主張といえば、フランスで見学した老人ホーム「ルモイ城」もユニークでした。フランスでは、個人主義の国らしく、「横並びの老後」ではなく、「ひとりひとりが自分の望む老いの暮らし」を求めてきました。
特に「1982年法」が制定されてからは、その動きに拍車がかかっています。1982年法とは、高齢者福祉に関する権限を国から県に移譲するというもので、自由度が高くなり、各地で特色ある高齢者施設が次々に誕生したそうです。
――らせん階段やシャンデリアがある!
殿井: らせん状に延びる階段や、輝くシャンデリアといった共有施設は、かつてお城だった頃の雰囲気を残していました。一方で、居室は意外とシンプルです。1か月の利用料は、自立した生活ができる人で約3000ユーロ(約37万円)、寝たきり状態のような症状が重い人で約3500ユーロ(約43万2000円)。この中には居室料金の他に、介護費や食事代が含まれます。(金額は全て殿井さん取材記事掲載時)
この施設は、入居者の方でも、やりたいことや得意なことがあれば、仕事をされていました。私がお会いした図書館で司書として働いていた女性は、「ルモイに入って、自分の役割をやっと見つけたわ!」と、満足そうにきびきびと働いていました。施設側は、「入居者の方々には、自分の家のようにイキイキと、くつろいだ生活を送っていただきたい。そのために設備も万全に備えています」というスタンスでした。
日本は「おもてなし」と「介護機器」で勝負
――介護に対してのスタンスもいろいろなんですね。
殿井: そうですね、国が違えば、生活様式や考え方が違うというのは、何も介護に限った話ではないと思います。でも、私は、「結局、一緒なんだ」と、思いました。
――え!? どういうことですか?
殿井: 取材を始める前は、「世界のどこかに、素晴らしい介護をしている国があるに違いない!」と思っていたんです。けれども、7年かけて9か国を回り、取材を続ける中で、「その国の介護制度の中で、その人に必要な介護を受けて人生を終える」ことをゴールとするという意味では、結局、一緒でした。介護制度そのものは、それぞれの国に一長一短があって、「この国の制度が素晴らしい!」ということはなかったんです。
――そういう視点で考えると、日本も悪くないですか?
殿井: もちろんです。日本の制度は、オーストラリアと同じ「中福祉・中負担」に分類され、北欧の「高福祉・高負担」とアメリカの「低福祉・低負担」のいいとこ取りをしたと言われています。先ほどもお話ししたように、どの制度も一長一短なので、もちろん課題もありますが。
それに、人に寄り添おうとする、いわゆる「おもてなし」の気持ちは日本独特の良さだと思います。また、介護機器の開発にも、日本は力を入れています。この二つを磨いていくことで、日本の介護は、より素晴らしいものになるのではないかと、私は期待しているんです。
殿井さんのお話を伺っていると、まるで自分も海外の介護施設を回ったかのような気持ちになりました。今のアラフィフが、介護を受ける可能性が高い後期高齢者になるまでには、あと20年ほどあります。日本の介護制度がどのように変化していくのか、私も期待を持ってウォッチングしていきたいと思っています。(楢戸ひかる マネーライター)
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