ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Track22】エレベーターの同乗を避けられて――濃厚接触者となった女性に対する「コロナ・ハラスメント」――
ランチタイムのエレベーターで
翌週の月曜日、ミキさんは会社に出向きました。総務課と直属の上司や同僚に挨拶し、自身のパソコンでデータ整理に取りかかりました。ただ、リモートワークの推奨で、オフィスには普段の1割ほどしかおらず、多くの同僚が在宅勤務でした。
昼休みになり、ミキさんはコンビニエンスストアに出かけようと、一人でエレベーターに乗りました。エレベーターは下の階でいったん止まり、その階の部署の男性数人が乗り込んできました。ただ、その中の管理職Aさん(40代、男性)だけは、ミキさんの方をじろじろ見ながら、乗り込もうとしません。他の社員たちが、「どうぞ」と同乗を促しても、Aは「いや、先に降りてくれ」と大げさに首を横に振って、その場から去っていったそうです。
ミキさんは、少しの間、管理職Aさんの様子に釈然としませんでしたが、ふと思いつきました。
(もしかして、私が濃厚接触者だったから?)
ただ、「思い過ごしかもしれない」と気を取り直し、午後の勤務を終えて、会社を出ました。けれども、何となく嫌な予感がしていました。
LINEのメッセージに凍りつく
エレベーターに同乗して来なかった管理職Aさんは、1年半ほど前、会社の懇親会の席で隣り合わせ、お酒に酔った勢いで、ミキさんの私生活についていろいろ尋ねてきたことがあります。ミキさんも、冗談まじりに適当にかわしていましたが、LINEアカウントを交わすことは断り切れませんでした。
以後、Aさんから、食事に誘われることが数回も続きました。ミキさんは、その都度丁寧にお断りしていましたが、休日にも「今日はどうしているの?」などのLINEメッセージが入るようになりました。上司ということもあり、ミキさんも最初のうちは返信していましたが、徐々にやりとりが不快になり、スタンプのみを返したり、「既読スルー」を繰り返したりするうちに、Aさんからの連絡は来なくなりました。
その後、会社でAさんと顔を合わせると、ミキさんが挨拶をしても、無視されるようになりました。気まずい状況でしたが、翌年春にAさんが別フロアに異動した後は、会社で出くわすこともほとんどないまま半年以上が経過しました。
ミキさんは、そんな記憶をたどりながら、「まだAさんは『しこり』を感じているのかもしれない…」と感じたそうです。
翌日、ミキさんは在宅勤務でした。オンラインでの打ち合わせを終えて、自身の携帯電話が点滅しているのを確認すると、AからのLINEが複数入っていました。一瞬凍りつくような思いでメッセージを開くとこう書かれていました。
「ほんとうに、あなたのコロナは大丈夫なの?」
「ずっと、在宅でいたら?」
2 / 4
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。