山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
炊飯器に両手を置いた1歳男児がやけどで24日間入院…蒸気口は100度、皮膚移植が必要なことも
今回は、蒸気によるやけどについてお話しします。日常的に使用する家電で蒸気が出るものには、電気炊飯器、電気ポット、電気ケトル、スチーム式加湿器などがあります。高温の蒸気によって、皮膚移植が必要になる重度のやけどを負う事故も起きています。最近、国民生活センターから 詳しい報告書 が出ていますので、それを紹介します。
乳幼児は重度のやけどになりやすい
事例 :2019年10月、1歳2か月の男児。電気炊飯器をキッチン内の高さ60~70センチの引き出しの上に置いていた。普段はキッチンに柵をしているが、その時は開いていた。泣き声に母親が気づいて見ると、炊飯器の蒸気口に両手を置いていた。手指にIII度(皮下組織にまでおよんだ状態)の熱傷を負い、24日間入院した。
乳幼児は、高温の蒸気に触れた際の反射動作が大人に比べて遅く、また皮膚が薄いことなどから、重度のやけどになりやすいのです。
国民生活センターの調査では、蒸気の温度や量を低減する機能がない機種の場合、サーモグラフィーで測定した電気ケトルの蒸気は、注ぎ口付近は96℃、その5センチ上では55℃でした。電気炊飯器や電気ポットの蒸気口の温度は99℃で、5センチ上では87℃でした。ヒーターで水を加熱して蒸気を出すスチーム式加湿器では、蒸気口の温度は72℃でした。蒸気の温度や量を低減する機能がある機種では、蒸気口の温度は約30~40℃で、60℃以上の差がありました。
0~5歳の子どもがいる保護者5000人を対象に実施したアンケートでは、約1割の保護者が「乳幼児が蒸気によるやけどをした/しそうになった」と回答し、約4割の人は、家電から出る蒸気による乳幼児のやけどを想定していませんでした。家電の設置場所を聞いたところ、床から90センチ以上の高い場所に設置した家庭では、乳幼児のやけどが起こりにくい傾向がみられました。7割前後の人は、各家電について、高温蒸気への対策機能が付いたものがあることを知りませんでした。6割以上の人が、高温蒸気でのやけどを予防するために蒸気を出さない家電を望んでいました。
やけどの多発を知らなかったメーカー
電気炊飯器はほとんどの家庭にあり、ほぼ毎日、使用されています。炊飯器の蒸気によるやけどは多発しており、子どもだけでなく、大人もやけどしています。
2006年5月、子どもの安全に配慮した製品や、子育てを支援する製品や環境の整備を推進するキッズデザイン協議会が設立され、私は、その設立集会で講演した後、懇親会に出席しました。そこで、家電製品を作っているメーカーの人と話をする機会がありました。「電気炊飯器によるやけどが多発している」という話をしたところ、その人は「そんな話は初めて聞いた」とびっくりしていました。やけどが多発していることを、メーカーの人がまったく知らないことに、私の方がもっとびっくりしてしまいました。そこで、「炊飯器から出る蒸気の温度を下げた製品を作ってください」とお願いしました。その人は、社内のいろいろな部署に働きかけ、研究所で製品の開発に取り組んでもらうことになりました。
私からは、それまでに収集していた電気炊飯器の蒸気によるやけどの42例のデータを提供して蒸気の温度を下げる必要性を指摘し、「製品を改良すれば社会から高く評価される」と書いた要望書を送りました。しばらくたって、研究所の人から「蒸気の温度は何度にすればいいか?」という問い合わせがありました。文献を調べ、「50℃であればいいと思います」と回答しました。それから2年半後、電気炊飯器から出る蒸気の最高温度が50℃になる炊飯器が完成しました。それまでメーカーの人と話をする機会はなく、自分がお願いしたことが実現して、私はとてもうれしく思いました。
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