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同じ法人でも年40万円超の開き…広がる介護の賃金格差 施設の種類で待遇異なり

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 政府の経済対策で、2月から介護職員の賃金が引き上げられる。一方、同じ介護分野でも、自治体の財源で運営される養護老人ホームの職員など賃上げの対象から外れた職種もある。介護現場での賃金格差は広がっており、改善を求める声が出ている。(石井千絵)

介護現場の賃金格差…同じ資格施設で変わる待遇

 「はい、ゆっくり立ちましょうか」

 先月下旬、東京都府中市の社会福祉法人「安立園」が運営する養護老人ホームでは、風呂上がりでベンチに座っている80歳代の男性入所者に職員が優しく声をかけ、部屋着を着せていた。この施設では週2回、介助が必要な入所者が入浴する日が設定されている。

 この施設では110人の男性が共同生活をしているが、平均年齢は79歳で、最高齢は92歳。認知症や精神疾患を抱える人もいて、約1割が要介護1~3の認定を受けている。

 身の回りのことが自分でできる人がいる一方、入浴や歩行、排せつの介助が必要な人や、薬の服用、第三者による金銭の管理などが必要な人もいる。

 19人の支援員が、夜間の見回りなど、24時間体制でサポートしているが、入所に要介護認定が必要な特別養護老人ホーム(特養)とは異なり、介護保険の対象にはなっていない。

 政府の経済対策に盛り込まれた介護職の3%程度(月額9000円)の賃上げは、介護報酬の「処遇改善加算」に上乗せして支給する仕組みだ。介護保険制度の対象ではない養護老人ホームや軽費老人ホーム、ケアハウスの職員は、今回の賃上げの対象外となる。

 原口晋一施設長は「自立支援施設だが、実際は要介護の人がどんどん入所しているのが現状だ。職員の負担は大きい」と話す。

年収40万円超の開きも

 平均賃金が低く、慢性的な人手不足が続く介護職員は、過去にも介護報酬の改定などを通じて処遇改善が進められてきた。例えば、2019年10月の消費税率10%への引き上げ時には、政府は同じ事業者に10年以上勤めている介護福祉士に対し、1人当たり月平均8万円相当の賃上げをした。

 厚生労働省は09年度からの10年間で、介護職員1人あたり月7万5000円の処遇改善を行ってきたとしている。しかし、ほとんどが処遇改善加算の仕組みで支払われており、養護老人ホームなどの職員の処遇改善は取り残されてきた。

 安立園では賃上げ対象の特養と、対象外の養護老人ホームの両方を運営しており、同じ社会福祉法人の中で、賃上げの恩恵を受けてきた職員と受けられなかった職員がいる。運営する特養の介護職員と養護老人ホームの支援員の給与を比較すると、基本給が同じ場合、介護職員と支援員は年収で40万円超の開きがあった。

 安立園では養護老人ホームの支援員の多くが介護福祉士の資格を持つ。にもかかわらず、働く施設によって賃金が異なってしまう状態だ。村上忠夫常務理事は「人事異動で給与が減ってしまう事態も起こり、養護老人ホームで働きたい人は少ない。待遇に不満が出ないよう、事業所で格差分を穴埋めし、なるべく差を縮めている状況だ」と話す。

 栃木県内で養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人「蓬愛会」の大山知子理事長も、「養護老人ホームや軽費老人ホームは、社会的困窮者のセーフティーネット(安全網)であり、地域共生社会を支えるのになくてはならない存在。介護サービスではないということで光が当たらないのは残念だ」と話す。

 こうした声を受け、国も対応に乗り出した。厚労省は先月、養護老人ホームなどの職員について「介護職員の業務内容に類似していることから、必要な処遇改善を図ることが重要」と、自治体に改善を求める通知を初めて出した。賃上げにかかる経費は地方交付税で措置する考えも示した。

 こうした動きを踏まえて全国老人福祉施設協議会は自治体に改善を求めているが、「施設への理解や政策の優先順位が低い自治体もある」(施設関係者)として、実現を不安視する声もある。今後は自治体の判断が焦点となる。

国庫負担で処遇改善を

介護現場の賃金格差…同じ資格施設で変わる待遇

 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)の話

 養護老人ホームや軽費老人ホームは、近年、介護が必要な入所者が増え、高齢者の受け皿として大切な施設であり、こうした施設の職員も介護職員と同様に処遇改善をすべきだ。小泉内閣で、国と地方の税財政を見直す「三位一体改革」がなされ、こうした施設での賃上げも、自治体ごとの判断になってしまった。福祉は地域ごとに差が出てはいけないものなので、国庫負担で養護・軽費の職員の処遇改善に充てる交付金を支給するなどの方法を考えるべきだ。

◆養護老人ホーム= 老人福祉法に基づいて設立・運営される老人福祉施設。経済的な困窮や近隣住民とのトラブルや虐待など、自宅での生活が難しくなった人が、市区町村の判断で入所する。収入に応じて、無料や低額で利用できる。自立に向けた支援をする施設なので、指定を受けた一部の施設を除いて、介護保険制度の対象外となっている。

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