文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

抗がん剤治療の予定を変えて旅行に行ってもいいですか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
抗がん剤治療の予定を変えて旅行に行ってもいいですか?

イラスト:さかいゆは

 「抗がん剤の予定を変えて旅行に行ってもいいですか?」

 抗がん剤治療中の患者さんから、そういう相談を受けることはよくあります。私の答えは、たいてい、こうです。

 「もちろんです。ぜひ行ってくださいね。どちらへ行かれるんですか?」

 抗がん剤投与のスケジュールを調整しつつ、旅行の話で盛り上がります。患者さんが楽しそうに話してくれると、私もうれしくなります。

がんがあってもなくても自分らしく生きる

 患者さんの中には、申しわけなさそうに聞いてくる方もおられます。医者の機嫌をうかがいながら、ダメと言われたらどうしようと心配しながら、おそるおそる許可を求めてくる感じです。自分のしたいことをするのに、担当医の許可が必要というのは、なんだか窮屈です。病気になったら、病人としての立場をわきまえて、医者の言うとおりにすべきという雰囲気があるのかもしれませんが、本来は、病気があってもなくても、人間として自由であるということに変わりはありません。

 状況によっては、医学的に避けた方がよいこと、注意すべきこともあり、それを理解していただく必要はありますが、基本的には、気兼ねなく、好きなことをするのがよいと思います。

 「肉を食べてもいいのですか?」「お酒を飲んでもいいのですか?」「スポーツをしてもいいのですか?」……いろんな質問を受けますが、特別な理由のない限り、答えは「OK」です。

 「どうぞどうぞ。好きなだけ楽しんでくださいね。○○さんが楽しみにしているもので、私がダメということはまずありません。医者に許可を求める必要はないので、医者に聞くよりも、まずは、自分の体に相談しましょう。体調が悪くなったりしなければ、何をしてもいいですよ。もちろん、医学的にダメなことがあれば、そのときはちゃんと言いますので、大丈夫です。心配なことがあれば、何でも相談してください。こっそり楽しんでもいいですが、できれば、楽しいことは私にも教えてくださいね」

 がん患者だというだけで自由が制限されることはなく、がんがあってもなくても、自分らしく過ごせばよいということです。体調がすぐれず、できないこともあるかもしれませんが、いろいろと工夫して、できることをサポートするのも医療の大事な役割です。自分らしく生きることを支えるのが医療であって、医療がそれを妨げるようなことがあってはなりません。

その日に体調がよくなるよう治療を調整することも

 もちろん、何も考えずに、すべてOKと言っているわけではなく、たとえば、高価な健康食品の話があったら、「そういう不自然なものはやめておいた方がよいですよ」と言います。患者さんに不利益が及ぶようなものであれば、それはきちんと説明して、やめてもらうようにしています。

 抗がん剤についても、状況によっては、スケジュールをきちんと守るかどうかで治療効果が左右されることがあり、「ここはスケジュール通りにやった方がよい」と説明することもあります。旅行のスケジュールを変更できるのであれば、そうしてもらうこともあります。でも、その日に出かけることに意味があったり、子供の入学式や結婚式など、特別な一日だったりする場合には、そのイベントと治療スケジュールを 天秤(てんびん) にかけて、ギリギリの調整をします。医療においては、プラス面やマイナス面の微妙なバランスで判断することも多いので、患者さんと医療者がきちんと話し合うことが重要です。

 旅行の日や人生の特別な日に体調がよくなるよう、スケジュールを調整することもあります。調整した結果、「旅行を楽しめた」「食欲もあって、おいしいものをたくさん食べられた」なんていう話を聞くと、腫瘍内科医としての役割を果たせたと感じます。抗がん剤治療中は、白血球が減って感染症にかかりやすくなることもありますので、それなりの注意が必要ですが、発熱時の対処法などを理解していれば、旅行を楽しむことは十分に可能です。

 医療者側の事情を言うと、検査や治療の予定は急には変更できないことがありますので、大事な用事がある場合には、早めに伝えていただけるとありがたいです。私は、患者さんの予定をあらかじめお聞きして、カルテに書き込むようにしています。「化学療法3回目」といった治療予定と、「△△へ家族旅行」「息子さんの中学校卒業式」「□□のコンサート」といった予定が、同じように並んで記載されているわけです。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takano_toshimi_120-120

高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」の一覧を見る

最新記事