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森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」

医療・健康・介護のコラム

「突然、のどが渇いて」に潜んでいた深刻な病…患者が訴えたいことと医師が知りたいことの違い

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「今朝から」「数日前から」「10年前から」 一番ヤバそうな頭痛は?

 ズバリ、診察で私たち医師が真っ先に考えるのは、「超急いで対応しないと死んでしまうようなヤバい病気なのか、それ以外の病気なのか」につきます。例えば、頭痛ならクモ膜下出血、胸痛なら心筋 梗塞(こうそく) や肺塞栓症(エコノミークラス症候群ともいいますね)など。その点では「時間」、特に「症状の起き始め」とその後に関する情報は非常に重要なヒントになるんです。皆さんは、〈1〉朝、顔を洗おうと蛇口をひねった瞬間に起こった頭痛、〈2〉一昨日の朝に起きてから徐々に出現した頭痛、〈3〉10年前から出たり消えたりし、天気のたびに悪くなる頭痛……のうち、どれが一番“ヤバそう”と感じるでしょうか。

 正解は〈1〉です。「症状の起こり始めに何をやっていたかを明確に思い出せる」ものを突然発症とかSudden onsetと呼んでいて、体の中の血管などの大事な構造物が破れた、よじれた、裂けたなどの緊急事態が起こっている可能性が高いのです。

 私は、「ある瞬間から突然、のどが強烈に渇きはじめ、以降ずっと水を1日に4~5リットル飲むようになってしまった」という訴えで来られた患者さんを、これまでに2人、診察したことがあります。どちらの方も(1人の方は5年前だったにもかかわらず)「のどが渇き始めたその瞬間」を鮮明に記憶できていたことがヒントになって、2人とも脳卒中による中枢性尿崩症と診断することが出来ました。

 しかしながら、突然といった言葉だけ拾っても、医療者と患者さんの持っているイメージは果たして全く同じでしょうか? 多くの患者さんは、「突然、具合が悪くなった」と訴えて受診されますが、ていねいに話をうかがうと大抵の場合は起こり始めのはっきりとした記憶はなく、数時間~数日かけて徐々に症状を自覚するようになっていることが、ほとんどだったりします。

 このように同じ言葉であっても、イメージするニュアンスの機微には差があるのが現実なのです。相違をお互いに認識し、地道にすり合わせていくことが、コミュニケーションを良好にする第一歩だと考えています。(森永康平 とちの葉クリニック院長)

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森永 康平(もりなが・こうへい)

 2011年、筑波大学医学専門学群医学類卒。組合立諏訪中央病院を経て、16年、獨協医科大学総合診療科助教。22年からは、「MED AGREE CLINIC うつのみや」(宇都宮市)の院長を務める。「医学教育を観察と対話から」を合言葉に、アート作品を活用した教育事業「 ミルキク 」を起業。

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