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受精卵はどう選ぶ?…通常は「見た目」 着床前検査に流産を防ぐ効果

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 体外受精では、妊娠・出産につながりそうな受精卵を子宮に移植します。通常は見た目がよい受精卵を選びます。新たに「着床前検査」で選ぶ方法の研究が進み、流産を防ぐ効果がわかってきました。ただ、すべての人の出産率を改善させる技術ではなく、正しい理解が必要です。(大沢奈穂)

染色体を解析

 日本産科婦人科学会(日産婦)は、体外受精で受精卵を原則1個ずつ移植するように定めています。双子や三つ子の妊娠は、母体の合併症や早産などのリスクが高まるからです。

 見た目での評価は、受精卵の発育のスピードや細胞の密度などを数日間観察して移植の順番を決めます。

 しかし、見た目がよくても、妊娠しなかったり、流産したりする場合があります。多くは、受精卵の染色体異常が原因です。

 着床前検査は、受精卵の細胞を採り、染色体を解析します。不妊や流産につながる染色体の異常がない受精卵を子宮に移植します。

 日産婦は、有効性を確かめる臨床研究を行っています。対象は、〈1〉体外受精で2回以上続けて妊娠しない〈2〉2回以上流産した〈3〉夫か妻に染色体の構造異常がある――のいずれかです。

 昨年9月にまとまった中間解析では、正常な受精卵を移植できた場合の妊娠率は66%、流産率は10%でした。日産婦は、従来の成績(妊娠率35%前後、流産率20~30%)と比べ「一定の効果がある」とし、4月から対象を限ったまま不妊治療として認める方針です。

 関東地方に住む女性(40)は、体外受精で3回連続で妊娠せず、加藤レディスクリニック(東京)で検査を受けました。見た目の評価では「良好」とされた5個のうち、検査で染色体が正常だったのは1個のみでした。この受精卵を移植して昨年、出産しました。「見た目で選んでいたら出産まで時間がかかったかもしれません。不妊や流産が続くのは心身にこたえるので、子どもを諦めていたかもしれません」と振り返ります。

 同クリニックの研究データでは、着床前検査で調べた570人の受精卵のうち正常だったのは19%でした。女性の年齢別に見ると、34歳以下では47%だったのに対し、43歳以上は6%でした。院長の加藤恵一さんは、「女性の加齢に伴い、染色体異常の受精卵が増えます。年齢が高い人は、数少ない正常な受精卵を見つける検査として有益と考えられます」と指摘します。

 日産婦は、治療として認めた後も年齢別の解析など、どのような夫婦に役立つのか、研究を続けます。

正しい理解必要

 検査を希望する夫婦に対しては、正しい情報提供が求められます。中間解析では検査結果が出た6割超が、子宮に移植できる受精卵がありませんでした。その場合、出産に結びつける技術ではありません。

 細胞を採取する際に受精卵に与えるダメージが、妊娠率を低下させる可能性も指摘されています。

 検査には、障害を持って生まれる子どもを受精卵の段階で排除しかねない懸念もあります。東京女子医大教授の山本 俊至としゆき さんは、「染色体異常がある受精卵の多くは出産に至りません。排除ではなく、子どもを望む夫婦の治療であると、社会に理解してもらう取り組みも大切です」と話します。

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