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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

扉の前で座り込んでうなだれる、不思議な光景がまた始まり…なぜ「文福」は入居者の“看取り活動”を行うのか?

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入居者の家族から礼を言われた「文福」…最も印象に残った看取り活動

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入居者のベッドから離れない文福

 本橋さんは、飲食ができなくなっても、大変頑張っていました。何とそこから4週間も命を保ったのです。

 ご家族は、最初はホームに泊まり込み、24時間付きっ切りだったのですが、1週間たつと、それを続けることはできなくなりました。ご家族の皆さんにも、ご自分の家庭や仕事があるので当然です。そこから、ご家族は交代で面会に来るようになりました。

 看取り介護態勢になっても、「さくらの里山科」からご家族に付き添いを求めることはありません。全てのケアは職員が行います。一方で、ご家族が希望されれば、居室に泊まることができ、24時間付き添うことも可能です。ただし現在は、新型コロナ感染症の感染防止のため、危篤状態の場合を除き、短時間で少数のご家族にのみ居室での面会を認めることにしています。

 なお、居室での面会を認めること自体が、看取り介護態勢になった入居者の方への特別措置です。通常の入居者の面会は、1階のホールで10分間だけ、新型コロナ感染症のワクチン接種済みのご家族にのみ、完全予約制で実施しております。「さくらの里山科」がある神奈川県横須賀市内での感染状況が悪化したら、それもできなくなり、窓越し面会かオンライン面会のみとなります。

 さて、本橋さんは4週間の間で何回も体調が悪化し、ご臨終間近かと思われる時がありました。もちろんその都度、ご家族に電話を入れます。ご家族が駆けつけてくると、何とか本橋さんは持ちこたえてくれる、ということが繰り返されました。

 私にも経験がありますが、人の死が間近という状態が長期間続くのは家族にとっては大変な負担になります。大切な人が一日でも長く生きてくれるのはうれしいのですが、急に呼ばれたり、泊まり込んだりということが続くと、疲れ切ってしまいます。本橋さんのご家族も 憔悴(しょうすい) し切っていました。

 そこで、ユニット長が、文福の看取り活動の有無を伝えることをご家族に提案しました。本橋さんの体調が悪化したことを連絡する際、文福が看取り活動を始めているか否かも一緒に報告するというものです。もちろん、職員たちが文福の看取り活動に基づいて何かを判断するのではありません。活動の有無だけを伝えて、ご家族の判断材料にしていただくことを提案したのです。

 結果として、文福の看取り活動は、本橋さんのご家族にとっては大変役に立ちました。体調悪化の連絡が入った際、文福が看取り活動をしていなかったら、ご家族のうち、誰か1人だけがホームに様子を見に来ることにされたのです。これでご家族の負担は大きく軽減されたと思います。これが繰り返された後、ついに文福が看取り活動を始めたという報告を受け、ご家族、親戚が全員駆け付けてきました。そのお陰で、ご家族全員が本橋さんを見送ることができたのです。ご家族の皆様は文福にお礼を言ってくださいました。

 これは、文福の看取り活動の中で、最も印象に残っていることの一つですが、だからといって私たちは文福に看取り活動を求めてはいません。今でも文福は、自分の意思で、自発的に看取り活動を行っています。

 (若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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