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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

つかまり立ちの7か月女児が電気ポットのコードを引っ張って…顔や体幹に全身の11%のやけど

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 われわれの身の回りには熱い液体がたくさんあり、乳幼児では熱湯によるやけどが多発しています。今回は、熱湯によるやけどの予防についてお話しします。

イラスト:高橋まや

炊飯器の蒸気吹き出し口は98℃

 古いデータですが、国民生活センターのリーフレット「くらしの危険」No.169(1993年7月発行)に、家庭内の熱源の温度が示されています。その中から、熱湯に関したものを抜き出してみましょう。

コーヒー:84℃            お茶:81℃
カップラーメン:80℃         みそ汁:91℃
ポット(蒸気吹き出し口):53℃    電気炊飯器(同):98℃

 では、ひとの皮膚は、どれくらいの温度に、どれくらいの時間、 曝露(ばくろ) すると、やけどになるでしょうか。データを見てみましょう。

 お湯の温度  3度の熱傷に要する曝露時間
  68℃    1秒
  64℃    2秒
  60℃    5秒
  56℃   15秒
  52℃    1分
  51℃    3分
  48℃    5分

 ずいぶん古いデータしか見つかりませんが、ひとで正確な実験することが難しいためでしょう。これは成人のデータです。子どもでは、もう少し低い温度、短い曝露時間でやけどになると思われます。

電気ポットによるやけどは生後6~11か月で多発

 2019年2月、東京都生活文化局から「 子供に対する電気ポットの安全対策 」という報告書が出されていますので、その報告を中心にお話ししましょう。

 東京都が13年からの5年間に把握した電気ポットによるやけどの事例は206件で、そのうち入院したのは51件でした。1歳以下の子どもが多く、とくに6~11か月で多発していました。原因に関する状況が判明している139例のうち、118件(85%)が電気ポットの転倒(「ぶつかった」「コードを引っ掛けた」など)によるもので、その他に「ボタンを押した」「蒸気に触れた」などの事例がありました。

 電気ポットが置かれていた場所が判明していた66例のうち、29件がテーブル、20件が床、17件が棚・キッチン台でした。典型的な事例を見てみましょう。

事例: 7か月女児。2017年8月。子どもをソファの上で遊ばせていた。背もたれにつかまり立ちをしていた際、そばにあった電気ポットのコードをつかんで引っ張り、本人にお湯がかかり受傷した。電気ポットは、ソファの横のラックに授乳用として置いていたものだった。温度は70℃の設定で、200~300ミリ・リットルのお湯が入っていた。顔面、両上肢、体幹にやけどを負い(全身の11%)、10日間入院した。

 電気ポットには、やけどを予防するためのさまざまな機能が搭載されています。

〈1〉ロック機能
電動給湯方式:「ロック解除」のキーを押してから「給湯」キーを押す
エア給湯方式:安全ストッパーがある
ハンディー給湯方式:プッシュボタンでロックし、プッシュボタンが上がっているときはお湯が出ない
〈2〉転倒流水防止機能・傾斜流水防止機能
転倒したり、傾斜したりしても大量の水が出ない構造になっている。Sマーク(電気製品の安全のための第三者認証制度)の認証では、転倒流水試験が義務付けられている
〈3〉マグネットプラグ
電源コードを手や足で引っ掛けるなどした場合、本体とプラグが外れることにより、電気ポットの転倒を防止する
〈4〉蒸気レス・セーブ機能
沸騰前にヒーターを自動オフにして蒸気の量を10分の1にする、蒸気を冷却して容器内に戻すことによって蒸気を出さない
〈5〉ふたの開閉
幼児がふたを操作しにくい構造にする

 電気ポットは、電気用品安全法の「電気湯沸器」に含まれており、電気ポットのJIS(日本産業規格)C9213の規格では、「10度の傾斜で転倒しないこと」、ポンプ式の自動形電気ポットの場合は「転倒流水試験で10秒間の湯の流出水量が50ミリ・リットル以下であること」が規定されています。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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