産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
医療・健康・介護のコラム
ワーク・ライフ・バランスの実現には、企業幹部の若返りが必要か
「子どもを風呂に入れるため早く帰りたい」と声を上げた
共働きの妻とは家庭内の仕事の役割分担をしています。こんな状態が続いては、家庭での役割を果たすことができません。妻の表情も険しくなっています。大仲さんは思い切って、プロジェクトリーダーの白木部長に「子どもを入浴させる8時半までに帰宅したい」と相談したのです。すると、「君は仲間の働く姿が見えないのか。みんな11時ごろまで残業しているぞ」とムッとした表情で反論され、受け止めてもらえませんでした。大仲さんはここで引き下がるわけにはいきません。勇気を出して、「小さい子どもがいて、妻も正社員として働いているので、なんとかご了解いただけないでしょうか」と食い下がりました。
白木部長は「家庭の事情もあるとは思う。でも、今が大事な時だ。奥さんに理解してもらってくれ」と逆に説得されました。それでも覚悟を決めた大仲さんは引き下がりません。「若手はこの働き方に疑問を持っています。『ワーク・ライフ・バランスが大事だ』と話し合っています。ご理解いただけないでしょうか」と反論すると、そこで白木部長も折れました。「わかった。でも、週に2回までにしてくれ」と言われ、さらに粘って3日になりました。
「ワーク・ライフ・バランス」は会社も進めている
産業医面談時に、「先生、会社の言う『ワーク・ライフ・バランス』は掛け声だけですよ。年輩の幹部社員は会社人間なんですよ」と話し始めました。そこで私は「勇気を出して、出勤日の中で3日間は早く帰れるようにしたのはすごいことですね」と評価したのです。彼は「誰かが言わないと、変わらないと思いました」と語りました。
私は「上司に与える印象とか、その後の処遇のことを考えると、なかなかこういうことは言いにくいですよね。そこはどう考えたのですか」と尋ねました。彼は「やはり悩みました。ただ、『ワーク・ライフ・バランス』は建前かもしれませんが、会社も進めていることですし、こんな働き方を続けていては、家庭が壊れてしまいます。ですから上司に言うことは妻に相談して決めました」。
大仲さんは、白木部長にどのように話をするか、妻を相手に練習をした上で臨んだそうです。おかげで腰が引けることなく自分の意見を言えました。
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