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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

コロナで別の個室に入院した50代夫と40代妻 重症化した夫の転院で「会えるのは最後かもしれない」

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 50代男性。職場の同僚が新型コロナウイルスに感染し、濃厚接触者としてPCR検査をしたところ陽性だった。その後、妻(40代)もPCR検査し陽性。妻は、子宮がんの手術をした後の化学療法中であり、夫より先に当院へ入院した。夫も翌日、当院へ入院した。妻は既往歴として高血圧、糖尿病があり、BMIは33.3であった。夫は高血圧と腎機能障害があり、BMIが37.4で、夫妻ともに重症化リスクが高かった。2人とも陰圧室の個室に入院したときには中等度の肺炎像があった。夫は時間の経過とともに酸素飽和度の値が悪化し、39度代の発熱が持続した状態であった。妻は、 倦怠(けんたい) 感はあったものの、発熱は2日で治まり (せき) が続く程度であった。夫妻に子どもはいない。犬2匹を飼っていた。

大学病院へ転院後は妻と会えなくなる

コロナで別の個室に入院した50代夫と40代妻 重症化した夫の転院で「会えるのは最後かもしれない」

 妻が化学療法中ということで、夫妻は以前から、感染しないよう細心の注意を払って過ごしていました。妻は、「普段から気をつけていたけど、旦那が感染してしまったから仕方ない。LINEで連絡とりあっているから大丈夫よね」と言っていたそうです。夫は、「自分はどうなってもよいから、妻は何とか助けてほしい。自分のせいで感染させてしまった」とつらそうな表情で語ったといいます。

 その後、職場の同僚の病状が悪化したことを聞いた夫は、「自分もダメかもしれない。有名人が亡くなったってニュースも聞いた。話すと息が苦しくて、寝るとそのまま死んでしまうのではないか……」と話した。自分の呼吸が日々悪化するにつれて、心の支えである妻のことを考えることすらできなくなっていった。酸素飽和度は80%に低下し、話すことも苦痛となり、ECMO(体外式膜型人工肺)も必要な状況になると思われた。当院では治療の限界があり、近隣の大学病院への転院を調整し始めているところであった。

 夫妻のケアに携わった看護師は、「夫が大学病院へ転院した後は、妻とも会えなくなる。心のよりどころがなくなって、治療に専念することができなくなるのではないか」と危機感を持ちました。患者さん(夫)の既往歴を考えると、「二人が会えるのはこの病院が最後となるかもしれない」という思いも頭をよぎったそうです。

精神的サポートを難しくした「感染対策」

 このケースは新型コロナ感染の第1波のときでした。看護師はこのケースを振り返り、「患者さんに対し、これから予測される病状の悪化について、いつものように話ができなかった」と言います。

 その原因の一つは、感染対策である個人防護具です。患者さんにとって重要な話をするには、互いの表情を見ながら対話することが大事ですが、個人防護具がそれを阻みました。予想される病状の悪化について話すにも、「相手に安心感を持ってもらうには、声をきちんと聴かせることが大事だけど、防具によって、自分の声がちゃんと届いていない感じだった。それに、相手には表情もわからない」と困ったそうです。

 病室とナースステーションにあるスマートフォンでのビデオ通話で、「マスクを取るとこういう顔ですよ」と、顔を見せながら会話をしましたが、患者さんには「どうせ話をしてもわかってもらえない」と思われているのではないか。そう考えて、もどかしかったそうです。病状や治療について話をした後についても、感染対策で病室に長時間いることができないため、精神的サポートをしにくい状態でした。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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