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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

コロナで別の個室に入院した50代夫と40代妻 重症化した夫の転院で「会えるのは最後かもしれない」

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妻が「死んじゃだめだよ」と手を握り…

 入院当初、夫婦は別々の個室にいて、LINEや電話でやり取りしていた。しかし、夫の病状が悪化し、不安も高まるにつれ、やり取りが少なくなっていた。看護師たちは、二人だけが共有してきた世界があること、また二人にとって愛犬2匹はとても大切な存在であることを感じ取っていた。しかし夫は、不安や恐怖から「死」しか考えられなくなっていた。大学病院に転院する前に、夫婦が大切にしてきたものを、もう一度、夫に思い出してほしいと考えた看護師らは、電話やLINEのやりとりではなく、直接会って話せる場を設けることにした。夫婦がそれぞれの個室から出て、レッドゾーン(汚染区域)で対面。奥さんが「死んじゃだめだよ。いくらなんでも死んじゃダメ。(愛犬の)ケンとリリーが保健所に行ったままじゃない。あなたが感染したから保健所に預けたんだから、責任もって引き取りに行かなきゃだめでしょ」と言い、夫婦は手を握り合った。その日の午後、患者は大学病院へ転院した。

 その後、患者さん(夫)は大学病院へ転院しました。ECMOを装着する治療の末に回復し、退院することができました。妻は、3週間当院に入院した後、退院し、今は子宮がんの化学療法を続けているそうです。

患者の生きる力を大切にすること

 患者さんが転院する前の夫婦のやり取りは、二人にしかできない会話でした。実際に顔を見て手に触れたことも、患者さんを勇気づけたのだと思います。このケースでは、患者さん自身が持っている生きる力を大切にすることが、回復につながると教えられました。また、視覚、聴覚、触覚とケアの関係性についても改めて考えさせられました。(鶴若麻理 聖路加国際大教授)

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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