本ヨミドク堂
医療・健康・介護のコラム
『ぼくとがんの7年』 松永正訓著

ショックというよりも、ぼくはがっかりしていた。イヤになるくらい失望していた。そしてしだいに怒りが湧いてきた。いい加減にしてくれ!――。
小児がんの専門医として重篤な患者と向き合い続けてきた筆者は、自らががん患者となった。 膀胱 がんの2度目の再発を知ったときの感情を、一人の患者として 糊塗 することなく語っている。
筆者は、ヨミドクターの人気連載 「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」 を執筆した松永 正訓 氏。生と死の境にある子どもたちの姿とその家族の葛藤を描く連載執筆と並行して、自身の闘病も続いていたことになる。物語は時に医師、時に患者としての視点で描かれ、時にそれらが交錯し、がんの告知を受けてからの混乱と恐怖がリアルに伝わってくる。
自身が治療してきた子どもたちと比べれば「段違いに軽症」と言いながら、詳細な記録を基に追っていく闘病の過程はやはり壮絶だ。しかしながら、ユーモアを交えた筆致によって、引き込まれるように読み進んでしまう。そして、「患者の心がここまで弱いとは思わなかった」という告白にたどり着く。
医師として、がん経験から多くを学んだ筆者は、さらに「医者が一人前になるためには生涯をかけて学ぶ必要がある」とも書いている。一般の患者にとっては、「医師」の実像に触れ、かかわり方を考えるきっかけにもなりそうだ。
(医学書院 1980円)
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