ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Track21】「認知症だから」会話できない? 本当の原因は筋力と関節の異常だった
認知症が原因ではなく…
私はあらためて、横たわるエイジさんに話しかけながら、視診、触診を始めました。普段から顔を合わせている私のことは認識してくれたようで、こちらからの問いかけに目で応えてくれるものの、返答が声にならない状態でした。
その時、私はエイジさんの表情の不自然さは、下顎が動いていないことが原因だ、と気づきました。
「顎関節脱臼……」
顎が外れていたのです。
すぐに私は、自分の所見をノリコさんに説明し、両手で脱臼の整復を試みました。
高齢者や意識レベルの下がった方は、思い切り「 欠伸 」をすることで、顎を外してしまうことがあります。それまでにも、私は精神科病棟などで何度か整復したことがあり、この時のエイジさんにもその経験を生かすことができました。
顎が元通りになったエイジさんは、「おお、せんせー」と笑い泣きしてくれました。ノリコさんも安心してくれた様子でした。
血液検査で判明した「低カリウム血症」
しかし、 安堵 するにはまだ早く、エイジさんは、両手両足を自発的に動かせない状態です。私は四肢の筋力を診ていきましたが、四本いずれもまひレベルです。左右のどちらか、上下のどちらかではなく、四肢すべてが動かなくなっていることから、脳卒中などの可能性より、血液中に含まれる電解質のカリウムが不足することで起きる「周期性四肢まひ」を疑いました。私は、A医師がオーダーした血液検査の項目に、電解質のバランスとも関連する甲状腺ホルモンなどの検査も追加オーダーし、結果を待つことにしました。
エイジさんの頭部CTの撮影が始まると、私は放射線技師のいる操作室に移りました。リアルタイムに脳内の画像が確認できます。以前から認められていたアルツハイマー型認知症の症状である脳 萎縮 のほかには著しい所見はありませんでした(現在の水準ならMRI撮影で確認したいところですが、当時のこの病院にはMRIが設置されていませんでした)。
その時、看護師が血液検査の結果を持って走ってきました。
私は、それを見てようやく 腑 に落ちました。
「低カリウム血症!」
カリウムの値が正常範囲を大きく下回っていました。甲状腺ホルモンなどに異常はありませんでしたが、やはり低カリウム血症による四肢の筋力低下が起きていたのでした。人によっては、けいれんや不整脈を起こす場合もあります。
2 / 3
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。