ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Track21】「認知症だから」会話できない? 本当の原因は筋力と関節の異常だった
「心の病」を抱えている人に、いつもと違う「体の不調」が生じた時、原因究明のためには、あらためて心身両面からの検討が必要です。ただ、何らかの精神疾患の診断名がついていることで、医師側に「精神的なものだろう」との先入観が強い場合、時には不調の真相を見逃すことも起こり得ます。今回は、「認知症」との診断名が、ある内科医の判断を鈍らせてしまった、というエピソードです。
「歩けない」「会話もおぼつかない」と救急外来に
エイジさん(72歳男性)は、数年前からアルツハイマー型認知症を抱え、私が勤めていた「認知症専門デイケア」に通所されていました。エイジさんには、高血圧、肺気腫、便秘などの身体疾患もあり、かかりつけの内科医院で薬による治療を受けていました。デイケアには、ほぼ毎日、エイジさんの長男のお嫁さんであるノリコさんと一緒に、歩いて通われていました。
ある日の午後、病棟を回診中の私に、救急外来担当のA医師から連絡が入りました。エイジさんが、朝から、ほとんど歩けなくなり、会話もおぼつかないとのことでした。内科が専門のA医師は、自身の診立てとして、「全身状態に大きな変化は見当たらず、血液検査の結果はまだ判明しないが、『言語障害』と表情などから『認知症」のせいで活気がないのではないか?」と私に話しました。念のため、これから頭部CTを撮影するとのことでした。
私は、A医師の説明に釈然としませんでした。
なぜなら、その日までのほぼ毎日、デイケアでのエイジさんの様子をみていましたが、突然、会話も歩行もできなくなるほどに認知症状が進行するとは考えられなかったからです。急激に起きているのは身体面の変化なのではないかと懸念しながら、検査室へと急ぎました。
CT撮影の順番待ちで、エイジさんはストレッチャーの上に横たわっていました。ノリコさんは、駆けつけた私を見つけると、エイジさんのここ数日の様子を教えてくれました。
便秘薬を毎日服用しているが、一昨日から下痢に近い状態であること、そして、今朝からは会話ができなくなり、どうも口の動きがおかしいように感じる、と。
慌てて救急に連れてきたが、担当の先生(A医師)からは、「精神科の先生に伝えましょう」と言うだけで、十分な説明を聞けていないとのことでした。
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