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武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

妊娠・育児・性の悩み

男子の大声を聞くと過呼吸に…不登校の高1女子 原因は「どなる父親」

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 これまでのコラムでは主に、子どもとお母さんとの関係を取り上げてきました。今回は、お父さんの態度が子どもに与える影響について考えてみたいと思います。

繰り返し保健室に運ばれ

男子の大声を聞くと過呼吸に…不登校の高1女子 原因は「どなる父親」

 麻衣さん(仮名)は、不登校と過呼吸ということで、思春期外来を受診した高校1年の女子です。会社員のお父さん、パート勤めのお母さん、2歳年下の弟の4人家族。お父さんは単身赴任で不在ですが、3か月に1度の割合で帰ってきていました。

 麻衣さんは、もともとおとなしい性格の子でした。小学校入学後から頭痛や腹痛を訴えて、学校を時々休んでいました。そのため小児科を受診しましたが、「体に異常はない」といわれました。中学校でも同様に頭痛や腹痛を訴えて、時々休んでいましたが、長期間休むことはありませんでした。友だちも少ないながら作ることができていたので、お母さんはひどく心配することはなかったといいます。

 高校入学後、麻衣さんは、授業中に突然、過呼吸を起こして保健室に運ばれることを何度か繰り返しました。保健室の先生から思春期外来を勧められましたが、麻衣さんは嫌がってなかなか受診しませんでした。しかし、夏休み明けになっても過呼吸を起こし、学校を休むことも多くなったので、高校1年の10月にお母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

「お父さんが家にいると、いつもビクビク」

 初診時の麻衣さんは、うつむいたままでほとんど話をしてくれませんでした。同伴したお母さんは、

 「勉強に熱心で、友だちとのトラブルも聞いたことがありません。麻衣のストレスになるようなことには心当たりがありません」

 と述べていました。

 不登校と過呼吸ということで、2週間に1度、お母さんと一緒に通院してもらうことにしました。学校については、無理して登校しないという方針にしました。

 通院を始めて3か月がたってから、麻衣さんはようやく、家のなかの様子を話してくれるようになりました。

 「私が小さい頃から、お父さんは、お母さんや私によくどなっていました。お母さんには、『食事の支度が遅い』『部屋が汚い』『子どものしつけがなってない』などと言っていたのを覚えています。私には『勉強していい学校に入れ』『ゲームをしたり、マンガを読んだりするな』『親の言うことを必ず聞け』などとどなり声で一方的に言ってきました。お父さんの考えには絶対服従です。だから、お父さんが家にいると、いつもビクビクして緊張していました。お父さんは単身赴任で家にいないのですが、教室で同級生の男子の大声を聞くと、お父さんの声を思い出して息が苦しくなり過呼吸になってしまうんです。それで学校にも行けなくなりました」

 と泣きながら話をしてくれました。

 お父さんについて、お母さんにも聞いてみました。

 「夫は自分がいつも正しいと思っている人です。家族のなかで自分が一番偉いとでも思っているのかもしれません。結婚当初からどなってくることの多い人でした。私は『また始まったのか』と思って聞き流すことができます。でも娘の麻衣はそうはいかなかったんですね。嫌な記憶が残ってしまったんですね。これからは、私が麻衣を守りたいと思います」

 と話してくれました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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