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武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

医療・健康・介護のコラム

男子の大声を聞くと過呼吸に…不登校の高1女子 原因は「どなる父親」

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単身赴任先から父親が帰ってくる…夜も眠れず

 年末年始にお父さんが帰ってくると聞いて、麻衣さんは気持ちが動揺し、 動悸(どうき) がして夜眠れなくなりました。

 この時、お母さんは、お父さんに麻衣さんが不登校や過呼吸になったいきさつを電話で話しています。お父さんはよくわかってくれたようで、年末年始の帰省の期間を短くして赴任先にすぐに戻りました。

 お父さんは、お母さんに対して、

 「どうしてもお前や麻衣にがんばりを求めてしまう。自分はがんばって会社のなかで生きてきた。でも家庭のなかでは、がんばりだけではうまくいかないものだなあ」

 とこぼしていたそうです。

 その後も麻衣さんは、診察のたびに、これまで経験したお父さんからどなられた場面について、泣きながら繰り返し話してくれました。高校1年の3月には、登校はできていませんでしたが、お父さんのどなり声を思い出すことはほとんどなくなりました。

 麻衣さんは、結局、全日制高校に戻ることをあきらめて、2年から通信制高校に転学することにしました。今では休まず登校しており、お父さんが帰ってきても、多少緊張はしますが、症状が出ることはありません。

思春期外来の子どもの父親に「二つのタイプ」

 思春期外来を受診した子どものお父さんは、二つのタイプに分けられます。まずひとつ目のお父さんは、麻衣さんのお父さんのように、「子どもの話を聞かず、一方的に自分の考えを押しつけてしかりつけるタイプ」です。もうひとつのタイプは、「子どものことはすべてお母さんまかせで、子育てにほとんどかかわろうとしない無関心なタイプ」です。

 麻衣さんのお父さんのように自分の考えを押しつける大人の男性は、自分に与えられた条件のなかで文句を言わず、ひたすらがんばることを子どもに求めます。自分の子どもが不登校になった場合、子どもにとって学校に行くことが当然のことであり、たとえ学校でつらいことがあっても、それに耐えることが大人になるために必要であると考えています。

 そのような考え方は、ある意味では間違ってはいないのですが、自分の目の前の元気のない子どもを見て、子どもの状態に合わせて柔軟に態度を変えられないことが問題なのだと思います。このような態度になるのは、お父さん自身が社会のなかでがんばり続けて生きていることの証しなのかもしれません。社会の大変さを子どもに教えようとして、励ましの意味も込めているのでしょう。しかし、子どもたちの居場所は家庭と学校だけなので、お父さんに追い詰められては子どもたちの逃げる場所がなくなります。「お父さんは頑固で物わかりが悪いところはあるけれども、いざという時には話をちゃんと聞いてくれる」。そんなお父さんがいてくれることで、子どもたちにとって、家庭がどれほどホッとする安らぎの場になることでしょうか。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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