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ヨーロッパの卵子提供 受けやすい近隣の国へ生殖ツーリズム

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 卵子提供とは、生殖補助医療の一つで、子どもがほしいと思っているけれども様々な理由で自分の卵子では妊娠できない女性が、第三者から卵子を提供してもらうことです。提供してもらった卵子と、夫やパートナーの精子で受精卵を作り、提供を受けた女性の子宮に、この受精卵を移植して妊娠出産を目指す方法です。まったくの他人から卵子の提供を受けることもあれば、姉妹や友人から提供を受けることもあります。

 卵子提供を受けたいと思った人は誰でも、受けたいと思ったときに受けられるのでしょうか。どんな人が提供しているのでしょうか。そして、提供によって生まれた子は、提供者のことを知ることができるのでしょうか。

国ごとに異なる生殖補助医療のルール

 生殖補助医療が普及するなかで、各国は、それぞれの社会に合わせて生殖補助医療のルールを作ってきました。国ごとにルールが異なるため、卵子提供を受けやすい国、受けにくい国があります。また、提供によって生まれた子どもが提供者について知ることができる国もあれば、子どもはいっさい提供者の情報を得られない国もあります。新型コロナ感染症の流行までは、その人が住んでいる国では卵子提供を受けにくいので、より受けやすい外国へ行く生殖ツーリズムが行われていました。

 ヨーロッパの状況をみると、2010年にベルギー、チェコ、デンマーク、スロベニア、スペイン、スイスの医療機関を対象にした調査から、イタリアや、ドイツ、オランダ、フランスからの生殖ツーリズムが多いことや、イタリアからスイスやスペイン、ドイツからチェコ、オランダやフランスからはベルギーやスペインというように近い国へ行く傾向があることがわかりました(注1)。

 生殖ツーリズムの送り出し国の一つであるフランスからは、男女のカップルが卵子提供を求めてスペインへ、またシングル女性や女性カップルが精子提供を求めてベルギーへ行くことが知られています。フランスでは生命倫理法により、生殖補助医療を受けられるのは男女のカップルのみ、精子や卵子、受精卵の提供は、無償と匿名の原則のもとで実施できると定められていました。特に卵子提供は提供者の負担が大きいため、提供を受けたいカップルの数に対して、無償で提供する女性が少なく、国内で提供を受けるには何年も待たなければなりません(注2)。

 一方、スペインでは、卵子の提供者は約900ユーロ(約11万円)を受け取ることができるので提供する人が多いとみられています。実際、提供者に対する調査から、他人によいことをしたいという気持ちと金銭の両方、または金銭のみが提供の動機だと答えた人が大半を占めています(注3)。フランスでは、非倫理的だという理由で国内では有償での卵子提供を認めていないのですが、それに対して、問題を他国に押しつけているという批判がなされています。

 なお、フランスの生命倫理法は2021年8月に改正され、女性のカップルやシングル女性も生殖補助医療を受けられるようになったので、ベルギーへ向かう生殖ツーリズムは変化するかもしれません。

日本は具体的なルールを検討中

 日本の状況はというと、生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係についての民法の特例を作る法律が2020年末にできました。卵子提供を受けて子どもを出産した女性が、その子どもの母親になると定められました。

 しかし、誰が卵子提供を受けられるのか、誰が提供者となるのか、提供によって生まれてきた子は提供者の情報を知ることができるのか、といった具体的なことは2年をめどに法に盛り込まれる予定で、現在、検討されているところです。この法律ができたことを受けて、日本産科婦人科学会は、提供者や提供によって生まれた子の個人情報の保存を含めて包括的に生殖補助医療を管理する公的な管理運営機関の設置を提案しています。

 日本で卵子提供を受けられる医療機関は少なく、外国で卵子提供を受けていることが推測されていますが、何人がどの国で受け、どれくらいの数の子が生まれているのか、その全体像はわかっていません。また、卵子提供を受けた方が、どのように決断したのか、どんなことに悩んだのか、相談相手はいたのか、なども詳しく調べられていません。

実態把握し、よりよい制度を

 日本の生殖補助医療の制度をより良いものにするためには、そのような当事者の貴重な経験や意見を反映させていくことが必要です。

 私たち(柘植あづみ・洪賢秀・小門穂)は、卵子提供を受けて子どもを産んだ人、受けようと準備している人、提供を受けたけれどもうまくいかなかった人の経験を教えていただくために、アンケート調査(2022年1月5日まで)とインタビュー調査を行っています。
http://www.meijigakuin.ac.jp/~atsuge/

 調査結果は論文や書籍、公開セミナーなどで発信し、外国の制度の調査結果と合わせて、日本の実情に合った制度の検討に役立てたいと考えています。

 (小門穂・神戸薬科大学准教授)

(注1)Shenfield, F. et al. : Cross border reproductive care in six European countries, Human Reproduction, 25(6): 1361-1368, 2010.    

(注2)小門穂「生殖医療に対する法規制と生殖ツーリズム─フランスの最近の動向」『年報医事法学』32号(2017)

(注3)Pennings, G. et al. : Socio-demographic and fertility-related characteristics and motivations of oocyte donors in eleven European countries. Human Reproduction, 29(5): 1076-1089, 2014.

小門穂(こかど・みのり)

小門穂(こかど・みのり)
 神戸薬科大学薬学部准教授。1977年生まれ、大阪府出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学、2011年博士(人間・環境学)。生命倫理学・医療倫理学、主著に『フランスの生命倫理法 生殖医療の用いられ方』(ナカニシヤ出版、2015年)、最近では「フランス生命倫理法と『母親』の変容」『年報医事法学』36号(2021年)など。

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