脱毛治療のここが問題、ベテラン植毛専門医・今川賢一郎さんが語る
インタビューズ
「1本1000円!」でも結果に満足できない…男性型薄毛に目立つ高額自費診療に専門医が警鐘
男性の4人に1人は薄毛や脱毛に悩んでいると言われ、インターネットにはAGA(男性型脱毛症)治療をうたうクリニックのPRも目に付きます。薬物治療や毛髪の移植治療などが行われていますが、いずれも自費診療で高額な費用がかかります。ベテランの植毛専門医、今川賢一郎さんのクリニックには、他のクリニックで満足いく結果が得られなかった患者の受診が増えているそうです。「きちんと説明していないし、技術的にも問題がある実態を伝えたい」と、思い余って「ウソがいっぱい!だまされないヘア治療」(現代書林)という本を出版しました。薄毛治療の現場で何が起こっているのか、今川さんに聞きました。(聞き手・渡辺勝敏)
脱毛の治療には、薬物療法と自家移植がある
――脱毛が気になったり、育毛剤では十分な効果が得られなかったりした時に、AGA治療のクリニックを受診すると思いますが、どのような治療が行われるのですか。
お薬を使った治療と自分の毛髪を移植する外科治療があります。薬物治療は、フィナステリドというお薬の内服と市販薬もあるミノキシジルの外用が基本です。前頭部がM字形に後退し、頭頂部が薄くなる男性型脱毛の原因は、毛髪を作る毛母細胞の5α―リダクターゼという酵素の活性で男性ホルモンのテストステロンが、ジヒドロテストステロンに変わり、これが頭髪の成長を抑制するために起こります。単に男性ホルモンの量の問題ではなく、酵素の活性がかかわっています。フィナステリドはこの酵素の働きを抑えます。ミノキシジルは血圧を下げる内服薬でしたが、毛が濃くなる副作用に着目して、外用の発毛剤として使われるようになりました。
薬はツムジ周囲には効果があるが……
――薬の治療にはどの程度の効果があるのですか。
製造元のデータで、フィナステリドは3か月ぐらいで抜け毛の減少が自覚できて、6か月以降に外見的な改善があるとされています。2年の服用により、3分の2の人でツムジ付近が服用前より濃くなり、残りは現状維持。生え際は4割で濃くなるとありますが、少し濃くなる程度のようです。副作用として50人に1人に性欲の減退や勃起障害があるとされています。ミノキシジルは、つむじ周囲にはそこそこの効果が期待できますが、生え際への効果は弱いです。
――クリニックでは、そのほかの薬やミノキシジルの内服を行うこともあるようですね。
フェナステリドと類似の薬でデュタステリドも使われています。ただ、この薬は欧米では頭髪への適用は認証されていません。ミノキシジルの内服薬は未承認ですが、医師の裁量で使うことはできます。個人輸入で使っている方もいるようです。ただ、薬は使ってみないと効くか効かないかわからず、効果を持続させるためには飲み続けなければいけません。日本皮膚科学会のガイドラインでは、ミノキシジルの内服は行うべきではないとしています。元々降圧薬ですからそれを継続して使うことには注意が必要です。
ミノキシジルの内服薬など高額処方の例も
――AGA治療を行うクリニックの中には、薬の処方に問題がある例があると、本の中で指摘していますね。
思春期以降にややM字のような形に生え際が変化していきますが、ほとんどは成人型のヘアラインへの自然な移行です。こうしたクリニックで16歳の高校生にもミノキシジルの内服薬が処方されていて、その結果、「頭痛がするのでどうしたらいい」と相談を受けたことがあります。本来は不必要な処方です。それに価格設定の問題があります。ミノキシジルの内服薬は月2000~3000円程度で提供することができる価格帯の薬ですが、極端な例では2万~4万円の設定をしているクリニックもあります。また、1年間で100万円を前払いさせる話も聞いています。薬は効果や副作用を確認しながら使うものですから、その意味でも問題です。
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