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スポーツDr.大関の「ムーヴ・オン!」

医療・健康・介護のコラム

「走る女性」が気を付けたい栄養面の管理

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X線検査ではわからなかった「疲労骨折」

 高校2年生のCさんは陸上部で長距離の選手です。中学時代から地域大会で優勝するなど、よい成績を残していました。しかし、その中学時代に、一度、右第4中足骨の疲労骨折を起こしたことがあります。この時は約1か月半練習を休むことで回復し、再び競技に復帰できるようになりました。高校1年生になったら、今度はすねの痛みから走ることが難しくなり、過労性骨膜炎「シンスプリント」(/article/20180315-OYTET50012/)と診断されて、再び約1か月練習ができなくなりました。その後、時々すねの痛みは起きるものの、パフォーマンスに影響なく練習もできるようになっていましたが、高校2年生になり、今度は右股関節に痛みが出現しました。

 近くの医療機関で撮影した単純X線検査では問題ありませんでしたが、なかなか痛みが改善する傾向がなかったため、精密検査も含めて私の病院を訪れました。

 股関節を動かしただけなら、若干痛みを訴えた程度でした。そこで、私が「片脚でスクワット動作はできる?」と尋ねて、実際に目の前でやってもらったところ、股関節を曲げる時に強い痛みが出ていました。そこで、MRI撮影を行うと、 大腿(だいたい) 骨の 頚部(けいぶ) と呼ばれる部位が明らかに他の骨とくらべて色が変わっているのがわかりました。

 私が疑ったとおり、初期の疲労骨折でした。場所的に、単純X線には写り込まなかったのです。

食事の量や内容の見直しを

 付き添いの母親に、Cさんの月経について尋ねたところ、現在は問題ないとのことでしたが、「食事は最近減っていたと思います」とお話しされました。特に女性の場合栄養面のバランスが崩れることで、疲労骨折を発症しやすくなることがわかっています。カルシウムやたんぱく質、ビタミンなどの不足で、骨の強度が落ちてしまうためです。

 走ることが大好きなCさんは、当然、競技への復帰を望んでいました。そこで、管理栄養士にも話に加わってもらい、食事の量や内容を見直すことにしました。

 走る動作は約2か月間、完全に中止しました。しかし、再び選手に戻ることを考えると、可能な限り、心肺機能を落とさないようにしたいところです。Cさんの疲労骨折の部位を考えると、体重がかかる荷重負荷は避けるべきですが、体重がかからない動作は禁止する必要はないため、プールで泳ぐトレーニングは許可しました。「泳ぐことは好きではない」と思っていたCさんですが、陸上への復帰というゴールがあったためか、水泳に行くことも苦ではなかったようです。

 2か月後、再度MRIを撮影すると疲労骨折の所見は消失していました。片脚スクワットでの痛みもなくなりました。栄養士のアドバイスを守り、食事もバランスよく取れているようで、復帰に向けた準備は整いました。

 私は「よし、段階的にジョギングから再開しよう」と、トレーニング復帰にゴーサインを出しました。Cさんは、痛みが再発しないか怖かったようですが、ジョギングをしても問題はありませんでした。監督とも相談し、少しずつスピードと距離を伸ばしていきました。高校生なので、その後、目を見張るような回復を見せ、どんどん好タイムを出すようになり、3か月後の駅伝大会に出場し、無事にたすきをチームメートにつなぐことができました。

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大関 信武(おおぜき のぶたけ)

 整形外科専門医・博士(医学)、読売巨人軍チームドクター、日本スポーツ医学検定機構代表理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 1976年大阪府生まれ、2002年滋賀医科大学卒業、14年横浜市立大学大学院修了。15年より東京医科歯科大学勤務。野球、空手、ラグビーを経験。スポーツ指導者などへのスポーツ医学知識の普及を目指して「スポーツ医学検定」(春、秋)を運営している。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村総合診療所整形外科ドクター。

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ムーブ・オン毎回楽しく読んでいます

ヨミドクター読みドクター

毎回楽しみに拝読させていただいております。今回の「ムーヴ・オン!」もとても勉強になりました。これからも、頑張って連載してください。

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