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布団にできた人の形したシミ…「逃げ出したくなる」強烈な臭い、死に向き合う特殊清掃

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布団にできた人の形したシミ…「逃げ出したくなる」強烈な臭い、死に向き合う特殊清掃

光さん(右)と弟の尚さん。常に「残された人の心を和らげるお手伝いができれば」と考え、作業に当たっているという=稲垣政則撮影

 今年1月、死後1週間ほどたった高齢男性の遺体が見つかった名古屋市内のアパートの「特殊清掃」に立ち会った。全身を覆う作業服とゴーグル、防じんマスクを着け、室内に足を踏み入れると、敷かれっぱなしの布団にできた 人形ひとがた の染みが目に入った。染みは床まで達し、赤黒く変色。鼻をつく強烈な臭いは、思わず逃げ出したくなるほどだった。

 作業に当たるのは、住人が遺体で発見されるなどした部屋の清掃を請け負う、 卜部光うらべこう さん(31)と弟の しょう さん(29)。高校、大学と、恩師の急死や友人の自死を経験した記者は、学生時代に「死とどのように向き合い、生きるか」を考える死生学を学んだ。取材先で知り合った2人が、清掃の現場で何を感じ、どう向き合っているのか知りたくて同行させてもらった。

 依頼主に返却するため、卜部さんたちは遺言書や金品などがないか、洋服のポケットや書類一枚一枚まで、丁寧に確かめながら、遺品を片付けていく。部屋の整理が終わると、電動工具で床板をはがし、消臭用の薬品をブラシで塗布していった。「この部屋で故人はどんな生活を送り、何を思いながら亡くなっていったのだろう」と想像させられた。

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電動工具で床板をはがす光さん

 不動産会社で働いていた光さんは4年前、父・吾朗さんを55歳の若さで亡くしたのをきっかけに、人の死に関わる仕事に関心を持つようになった。生前の吾朗さんは、「人の嫌がる仕事を率先してやれ」と口癖のように話していた。インターネットで特殊清掃のことを知ると、直感的に「これだ」と思ったという。大手業者などで2年ほど経験を積み、広告会社員だった尚さんを誘って、2019年に独立。現在は約20人の社員を抱える。

 国勢調査によると、65歳以上の高齢者の約5人に1人は独り暮らしだ。コロナ禍では人付き合いがより希薄になり、孤独死が増える懸念もある。昨年は11年ぶりに全国の自殺者数が増加。コロナ禍による生活や経済状況の変化が影響したとみられ、卜部さんたちも自死の現場を清掃することが少なくないという。

 足の踏み場もないほど、ゴミが散乱した室内、「あの時なんで努力できなかったんだ……」などと壁一面に書き殴られた後悔の言葉――。 凄惨せいさん な現場を前に故人の苦しみを感じ、心が押しつぶされそうになる。「父にもっと感謝の言葉を伝えておけばよかった」と依頼主から故人への思いを聞かされることもある。

 だからこそ、依頼主に寄り添い、丁寧な仕事を心がける。「本当はこの仕事が不要になって、一人でも不幸な思いをする人が減ればいい。せめて残された人たちが、少しでも負担がなく、気持ちのいい別れができるよう、責任ある仕事をしていきたい」と光さんは語る。

 岐阜県警を担当する記者は、命が失われる事件や事故を取材することが少なくない。卜部さんたちの思いに触れ、たとえ小さな記事でも、一人一人の死と向き合い、残された人たちの思いが読者に伝わるように報じていきたいと思った。(乙部修平 24歳)

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