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医療・健康・介護のコラム
実家の片付け 親に「捨てて」はNGワード…せかさず、完璧を目指さず

「来客用布団など片付けるものはまだまだたくさん」と話す菅原さん(右)と母(東京都内で)
「親をせかさず、丁寧にコミュニケーションを取りながら進めることが大切なんだと気づきました」。両親が暮らす東京都内の実家の片付けを続けている菅原康子さん(60)は振り返る。
近所に住む菅原さんが、実家の片付けを始めたのは約2年前。洋裁学校に通い、コートを手作りしてしまうほど服を大切にしている母(87)に、「衣替えのタイミングで、押し入れの整理をしようと提案してみた」という。
ところが、母はあまり気の進まない様子だった。そこで、しまい込んでいた服を着てもらうことで、サイズが合わないことを実感してもらった。すると、「いい生地を使っているんだけれど、仕方ないわね」と、処分することに少しずつ協力してくれるようになったという。
実家片づけアドバイザーの長峰智子さん(52)は「無理に急いで捨てようとすると、せっかく良好な親子関係までぎくしゃくさせることになりかねません。『完璧を目指さない』くらいの気持ちで取り組んでください」と指摘する。
菅原さん親子のケースでも、着物については手を付けていない。母が「義姉の勤めていた百貨店で購入した思い出があるので捨てられない」という。


実家の片付けでは、NGワードがあるという。その代表格が「捨てて」だ。長峰さんは「思い出の詰まった品に対して言われると、人生を否定されたような気持ちになる親もいるので気をつけて」と話す。「こんなもの残されても私が困る」と言うのも控えたい。
「防災」がカギ
代わりに、上手な言い方を試してみたい。「防災」をキーワードにすると、考えてもらいやすいという。
例えば、廊下や階段に物をたくさん置いている実家の場合、「そんなところに置いていたら転ぶよ」と片付けを促しても、「私はまだ若いから大丈夫」と耳を貸さない親も少なくない。そんな時は、「地震で夜に停電したら大変だよ」と言い換えてみたい。
また、思い出の品が比較的少ない洗面所や玄関などから行うのも一つの手だ。狭い場所の方が片付けたとき、すっきり感が出やすいという。片付けをどこか1か所で始められれば、別の場所も行いやすくなり、親の気持ちにもスイッチが入りやすい。菅原さん親子の場合も、押し入れを手始めに、玄関や納戸を整理した。
菅原さんの母は「最初は気持ちが乗らなかったけど、徐々に頭を切り替えられるようになった。もったいないと思っていたものも捨てられるようになった」と話す。最近では、自ら思い出のアルバムの整理を始めているという。(板垣茂良)
元気なうちに始めよう

なぜ、親の元気なうちに実家の整理を始めることが望ましいのだろうか。実家片づけ整理協会の渡部亜矢代表理事(55)=写真=に、その理由を聞いた。
親が亡くなった後に実家を片付ける遺品整理は、子どもにとって思っている以上に心理的な負担になります。生前はどうでもよいと思っていた品々が、「大事な親の思い出」に変わってしまいがちだからです。片付けられずに放置してしまうと、空き家問題にもなりかねません。

また、親が亡くなる前でも、急な病気や、認知症の発症などで、病院や介護施設に入る場合もあるでしょう。実家の片付けは、印鑑や通帳、不動産の権利書など、重要なものをどこにしまってあるのかを確認しておく機会にもなります。
物のない時代に育った世代は、「もったいない」という意識が特に強い傾向にあります。「ブランド物だから」「孫が使うかもしれないから」などと、捨てることに抵抗があるようなら、一時保管を提案しましょう。
具体的には、段ボールやポリ袋に入れ、見えない場所にしまいます。捨てないので、親にとっても心理的なハードルが下がります。経験上、見えなくなると、それに対する気持ちが薄れていきます。半年ほどたって忘れているようなら、処分を検討してみてください。(談)
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