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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

看取り犬「文福」が また…、ベッドに上り、慈しむように寄り添い 見送る

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夫婦の再会、そして穏やかに旅立って…「看取り」独特の雰囲気

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ベッドに上り、「看取り活動」をする文福

 入居者の皆さんがユニットを越えて交流することを禁止してしまったため、寺澤さん夫婦は、せっかく同じホームに入居したのに、全く会うことができませんでした。犬好きの寺澤さんは、いつも文福たちをかわいがっていて、とても幸せそうでしたが、奥様に会えないことだけは残念に思っていたに違いありません。

 寺澤さんは犬たちと触れ合いながら、しばらくは元気に過ごしていたのですが、徐々に体調が悪化していき、昨年の11月初めに入院しました。入院中に食べることも飲むこともできない状態になり、残念なことに、余命宣告を受けて、看取り介護のためにホームに戻ってきたのです。

 文福は、いつもかわいがってくれた寺澤さんのことが大好きでした。退院してきた寺澤さんのベッドに飛び移り、大はしゃぎしていました。この時は、文福は無邪気に喜んでいるだけでした。

 そして寺澤さんには、奥様とも再会していただくことができました。ホームに戻る時に合わせ、奥様を寺澤さんのユニットにお連れしたのです。余命いくばくもないと宣告されていたので、特例として奥様が他のユニットを訪れることを認めることにしたのです。寺澤さんが暮らすユニットのリーダーを務める坂田(仮名)と、奥様が暮らすユニットのリーダーを担当する高村(仮名)が、「何としてもご夫婦を会わせてあげたい」と強く主張していたからです。

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娘さんが二人の手を取り、しっかりとつないだ

 職員の押す車いすに乗った奥様が来ると、一緒にいた娘さんがお二人の手を取り、しっかりとつないでいました。奥様が「お父さん」と呼びかけると、ほとんど意識がない状態の寺澤さんの顔にほほ笑みがかすかに浮かんだようにも見えました。

 「何も退院の慌ただしい時に奥様をお連れしなくても……、翌日でいいのではないか」とも思ったのですが、当日にお会いしていただくよう決断したことが、実は大変な幸運でした。

 寺澤さんが退院した日の午後6時半ごろ、文福が「看取り活動」を始めたのです。ベッドに上り、慈しむように寄り添いました。寺澤さんがホームに帰ってきた際に見せた行動と同じなのですが、その雰囲気は全く異なっていました。私たちが何回も見てきた、間もなく逝去する入居者に寄り添う文福の「看取り活動」の時と、全く同じ雰囲気だったのです。文福の「看取り活動」を科学的に説明することはできませんが、その独特の雰囲気は、この日初めて文福に会った寺澤さんの家族にも、はっきりと分かるものでした。

 残念ながら文福の「看取り活動」は今回も正しく、翌日未明に寺澤さんは家族に見守られながら逝去されました。

 深夜のことでしたが、文福の「看取り活動」を見て準備をしていた坂田はすぐに駆け付けることができました。ご家族も心の準備をされていたようで、悲しまれていましたが落ち着いていました。

 寺澤さんは、最期に奥様と会うことができ、大好きな文福とも触れ合えたことで、穏やかに旅立たれたと私たちは信じています。

 (若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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1件 のコメント

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コロナ禍にも花は咲いた

みるく

静かに泣きました。あたたかい涙です。悲しすぎる別れの話をたくさん聞きます。だからよけいにうれしかった。本当に良かった。スタッフのみなさんの熱いお...

静かに泣きました。あたたかい涙です。悲しすぎる別れの話をたくさん聞きます。だからよけいにうれしかった。本当に良かった。スタッフのみなさんの熱いお気持ち。ありがとうございました。文福ちゃんにも、ありがとうね。元気でね。

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