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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

摂食障害で命の危険 それでも「カロリーを減らさなくちゃ!」と病棟を全力疾走する17歳女性患者

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お母さんに「おいしかった。ありがとう」と言えた!

 修学旅行で、みんなと一緒に楽しくご飯を食べるためには、どうしたらよいか。

 看護師は長期目標をたて、実現するために今できることを考えました。そして、「外泊の時に妹さんと同じ食事を食べてみること」「盛り付けは妹さんにしてもらうこと」「おやつも好きなものを一つ食べてみること」という短期目標を一緒にたてました。また、食事をつくってくれたお母さんにも、「ありがとうを言ってみよう」と。このような患者さんの治療やケアには、医師や看護師だけではなく、心理士が週1回の面談をし、外泊や退院が近づくと、栄養士が本人に必要な体重、必要なカロリー、具体的な食事例を教えるなどのサポート体制があります。

 患者さんは落ち着きを取り戻し、体重が少しずつ増加しはじめたので、試験外泊(自宅で過ごす)となりました。患者さんが病院に戻ってきた後、看護師は本人と外泊の振り返りをしました。「妹と同じ食事を食べてみたけど、全部は食べられなかった、でもお母さんには『おいしかった。ありがとう』と言えた」と患者は語りました。

 看護師は、今までの経験から、目標をすべて達成できることは難しいと考えており、患者が自分でたてた目標のなかで、「できなかったこと」ではなく、「できたこと」に意識を向けて、次の外泊では「残さず食べてみよう、妹さんとどんなおやつを食べるかを考えて、一緒に食べてみよう」と提案しました。

患者の強みを言葉で伝え続ける

 どのようなことを大切にして患者さんとかかわっているのか、この看護師に聞くと、「食行動異常や過活動は、本人ではなく、症状によるものであり、症状が本人にそうさせているものとして捉えることが重要」と話してくれました。「どうして食べないの?」「どうして歩き続けるの?」といったことは決して言わず、患者さんがつらい状況や治療に向き合っていることを肯定的に捉えていきます。この患者さんには、「中学の頃からコツコツとマラソンに取り組んできた」「心配している友だちを思いやることができるのは優しい心をもっているから」など、患者の強みを言葉で伝え続けることを通して、本来持っている力が発揮できるよう、かかわっているのが印象的です。

 また看護師は、「やせていることが美しいといった社会の見方も患者を苦しめている一因ではないか」と指摘します。患者さんの「頭ではわかっているけど、とめられないんだ」という言葉と、デイルームを全力疾走する姿……。こうした苦境にある患者さんに対して何ができるのか。ベッドサイドで看護師に「ゆっくりと」ではありますが、しっかりと自分の苦しい気持ちを話すことができた、そのような時間こそが、まさにケアなのだと教えられました。(鶴若麻理 聖路加国際大教授)

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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