ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
飼い主が亡くなってもホームの部屋から出ない「ムギちゃん」 猫付きの部屋に新しい入居者が…どうなった?
大山さんの居室が自分の世界だったムギちゃん

新たに入居した吉川さん(仮名)とムギちゃん
これまでに、飼い主である入居者がペットを残して逝ってしまったケースは、猫で2件、犬で2件ありました。その全ての場合で、猫たち、犬たちの生活拠点は、飼い主さんの居室からユニット(区画)のリビングへと移りました。まあ、猫も犬もユニットの中では自由に過ごしており、全ての入居者の部屋にも自由に出入りしていますので、生活拠点がどこであろうとあまり影響はないのですが。特に猫たちは気まぐれで、いろいろな部屋のベッドで寝たりしています。
それでも、生活拠点たる基本的な居場所は決まっています。ホームの飼い猫、飼い犬の場合はリビングで、高齢者の愛猫、愛犬は飼い主さんの居室です。しかし、ホームの飼い猫となったムギちゃんだけは、特定の居室が生活拠点になったのです。いいえ、単なる生活拠点ではありません。他の猫と違い、ムギちゃんにとっては大山さんの居室だけが自分の世界だったのです。
新しい入居者が、ムギちゃんと一緒の部屋で納得してくださるかどうか、普通なら大変気になるところです。しかし、私たちは全く心配していませんでした。なぜなら、次に入居する予定の、吉川良子さん(仮名、90歳代女性)は、昔、30匹以上の保護猫を飼っていることが新聞で取り上げられたほどの大の猫好きだったからです。ご自身が70歳代になってからは猫と暮らすことを諦めており、もう一度、猫と一緒に暮らしたいと熱望されて、「さくらの里山科」への入居を望んでいたのです。そんな方ですから、入居する部屋に猫がいついていることを、大喜びすることはあっても、嫌がることはないだろうと私たちは思っていました。
予想通り、ムギちゃんがいる部屋に入居することになると聞いた吉川さんは、とても喜ばれたそうです。喜び勇んで入居された吉川さんとムギちゃんは、最初に出会った瞬間から仲良しになりました。
誰もいない部屋(職員は入れ代わり立ち代わり訪れていましたが)で1週間過ごしたムギちゃんは、寂しかったのでしょう。すぐに吉川さんに寄り添っていました。吉川さんが寝れば、そのおなかにぴたりとくっついて丸くなっていました。その姿は、まるで何年も一緒に暮らしてきたパートナーのようでした。
天の上から見ている大山さんは焼きもちを焼いているかもしれません。それほど吉川さんとムギちゃんは仲良くなっています。吉川さんが居室にいる時はいつも一緒です。でも、きっと大山さんも、地上に置いてきてしまった愛猫のムギちゃんが幸せに暮らしているのを見て、喜んでいるに違いありません。大山さんから吉川さんに、「命のバトン」は確かにつながったのです。
(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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