ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
飼い主が亡くなってもホームの部屋から出ない「ムギちゃん」 猫付きの部屋に新しい入居者が…どうなった?

入居当初のムギちゃん
愛猫のムギちゃん(現在、推定5~6歳)と一緒に入居した大山安子さん(仮名、80歳代)が今年10月、逝去されました。伴侶動物福祉のモデルケースとして、このコラムでも紹介したばかりでした。残されたムギちゃんはホームの飼い猫になりました。
私が経営する特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は、愛犬、愛猫と同伴入居できます。そして、もし飼い主である入居者が先立った場合、ご家族が望むなら、ホームで責任をもって終生、飼って世話をします。その際、ペットにかかる実費(餌代、消耗品代、医療費等)と世話代(1か月あたり5000円)は、ご家族にご負担していただいています。
ちなみにペットと同伴入居した方の利用料は、一般の入居者と変わらず、ペットの世話代もいただいていません。
利用料に触れたので、参考までに「さくらの里山科」の1か月の利用料についてもご説明しておきます。介護保険の一部負担金を合わせて、高い方で約23万円。安い方だと約5万円です。その間は何段階かに分かれており、一人一人の入居者が、どの段階にあたるかを決めるのは行政です。行政はご本人の収入状況によって利用料の段階を決めますので、原則としてご本人が支払える範囲の利用料となります。また、特別養護老人ホームには入居金もありません。公的な老人ホームである特別養護老人ホームは、経済的には誰でも入れる制度になっているのです。
ムギちゃんは大変、人懐っこい猫で、大勢の職員にすり寄っては、なでて、遊んでとねだってきました。職員の肩の上までよじ登ることも大好きでした。だから、飼い主の大山さんが亡くなった後もホームで幸せに暮らしていけるだろうと思えました。ところが、一つだけ問題がありました。大山さんのいた部屋から出ようとしなかったのです。
「犬は人につき、猫は家につく」と昔から言われていますが、猫も人につく、ということを私たちはよく知っています。これまで飼い主の高齢者と一緒に入居してきた愛猫たちは、皆、飼い主さんと一緒なので、新しい環境に引っ越しても、穏やかに安心して暮らしていました。元の家に帰りたくて、いつも脱走する隙を狙っている、などということは全くありませんでした。
ムギちゃんも大山さんと一緒に入居したその日から落ち着いていました。大山さんという人についていたのです。そして、大山さんの部屋がムギちゃんの家になりました。しかし、人にも家にもつくタイプだったようです。自分の家である大山さんの部屋からは出ようとしなかったのです。そのため、大山さんの部屋に次に入る入居者は、ムギちゃんと一緒に暮らすことが条件になってしまいました。「猫付き居室」となってしまったのです。
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文福君の話もそうだし、涙なしでは読めません。動物は飼い主を全力で愛してくれます。ペットと言いたくないです、家族です。年を取ったら一緒にいられなくなるなんて考えたくないので、今からここを予約しておきたいくらいです。高齢者とペットの問題は社会的な問題にもなっているので、こういう施設がもっと増えてくれることを希望します。
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